本研究の目的は,固定資産に係る減損損失の計上が企業経営に及ぼす影響について,直接的な影響(企業の事業リストラクチャリングなど)と間接的な影響(経営者のインセンティブに対する影響など)とに分けて実証分析を行うことである.会計基準の新設・改廃が企業経営に与える影響を実証的に明らかにしようという国内外の研究動向に対し,本研究ではこれまで十分な実証的研究が行われてこなかった「固定資産の減損に係る会計基準」を取り上げている.本研究の分析によって,当該基準が有する経済的意義を評価する上で有用な実証的知見が得られるだけではなく,会計基準の政策評価のあり方を考える上で重要な知見も得られることが期待できる. 以上の研究目的を踏まえ,初年度(平成27年度)においては,固定資産の減損損失計上が企業経営に及ぼす直接的な影響について検討を行った.まず,関連する文献のレビューを行うとともに,企業経営に対して規律付けを与えるという減損会計の機能を損なう要因として,経営者が恣意的に固定資産の減損処理を行っている可能性を想定し,連続的な減損損失の計上と経営者による利益平準化行動が関連しているかに注目した実証分析を行った.また,固定資産の減損処理が企業経営に影響を及ぼしたケースを取り上げ事例研究を行った. 最終年度(平成28年度)には,平成27年度に行った分析について追加的な作業を行い,研究成果をまとめ,論文として公表した.さらに,当初の研究計画に従って,固定資産の減損損失計上が企業経営に及ぼす間接的な影響(経営者のインセンティブへの影響など)について検討を行った.具体的には,固定資産の減損損失の計上が経営者の強制的交代(懲罰的意味合いをもつ交代)とどのように関連しているかについて実証分析を行った.
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