本研究の目的は、2000年代におけるヨーロッパ諸国の福祉改革をEUの影響と加盟国国内党派性の視点から分析することである。具体的には、「右派政権の改革で、EUが影響している場合としていない場合があるのはなぜか」という問いを設定し、その答えとしてEUの影響の大小に着目した。その上で、加盟国の右派政権では、「EUの影響が大きい福祉政策領域」および「EUの影響が小さい福祉政策領域」で政府中心の政策決定を意味する「調整」型の過程を経た「フレキシブルな」改革が行われた、という仮説を提示した。 当該仮説の妥当性を示すために、本研究は当初の計画を部分的に変更し、イタリア・第二次ベルルスコーニ中道右派政権(2001-2005年)の雇用、失業給付、年金改革の事例研究を行った。研究方法として、関連する先行研究やその他資料の分析、研究者へのインタビュー等によって、ベルルスコーニ政権の各改革における政府、労働組合、経営者団体間の政策決定過程を明らかにした。さらに、EUが公表した各種福祉政策についてのガイドライン、各加盟国の改革に対する評価を示した報告書、各加盟国への勧告(雇用の場合のみ)等の資料をその内容と公表された時期に注目しつつ分析を行った。その上で、以上二点を時系列に並べることによって、各改革はEUの影響を受けたか否かを考察した。 以上より、加盟国の右派政権では、「EUの影響が大きい福祉政策領域」および「EUの影響が小さい福祉政策領域」で「調整」型の政策決定過程による「フレキシブルな」改革が行われたと結論づけた。これは、EUの影響と右派政権(本研究ではベルルスコーニ政権)の福祉に対する選好の双方が改革に反映されたことを示しており、分析対象時期の福祉改革では、EUと加盟国国内政治がともに重要であったと解釈できる。この結論は、先進国の福祉改革および福祉政治についての先行研究とは異なる視点である。
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