本研究の目的は,近年盛んに研究が行われている再試行型待ち行列や途中退去のある待ち行列といった「レベル依存型待ち行列」の解析に資することを目的として,レベル依存型構造化マルコフ連鎖の定常分布に対する漸近解析や,切断近似によって得られる定常分布の誤差評価などを行うことである.補助事業期間である平成27年度から29年度までの間に下記のような研究実績を上げた.
まず,ブロック単調性をもつ離散時間マルコフ連鎖に対して,劣幾何的ドリフト条件を仮定し,最終列ブロック増大切断近似による定常分布の計算可能な誤差上界を与えた.関連する課題として,レベル依存型構造化マルコフ連鎖の特別な場合であるM/G/1型マルコフ連鎖を考え,その最終列ブロック増大切断近似の劣幾何的収束性に関する漸近公式を示した.ついで,指数的エルゴード性をもつブロック単調な連続時間マルコフ連鎖に対して,最終列ブロック増大切断近似によって得られる定常分布の陽的な誤差上界を求めた.つづいて,ブロック単調性を仮定しない一般的な連続時間ブロック構造化マルコフ連鎖を対象とし,その最終列ブロック増大切断近似の計算可能な誤差上界を与えた.さらに,可算状態をもつ連続時間マルコフ連鎖の北西角切断の正規化基礎行列に関する極限公式を示した.また,得られた極限公式を用いて,ブロック・ヘッセンベルグ型マルコフ連鎖や,その特別な場合であるGI/M/1型マルコフ連鎖の定常分布に関する行列無限積解を導出した.
最終年度(平成29年度)では,標準的な仮定のもとで,M/G/1型マルコフ連鎖に対する最終列ブロック増大切断近似の幾何的収束性について解析を行った.また,四分平面上の2次元反射型ランダムウォークに対する準出生死滅過程(QBD)近似を考え,ある技術的な条件の下で示される,定常分布の誤差上界について,国際会議IFORS2017にて発表を行った.
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