研究実績の概要 |
平成28年度の計画は、CRISPR/Cas9ベクターの細胞への導入条件の検討およびリアルタイムPCRによる融合遺伝子生成頻度の定量アッセイの樹立であった。平成27年度に構築したCRISPR/Cas9ベクターはレンチウイルスベクターであるため、融合遺伝子を最も多く生成するウイルス力価を探った。また同時にDNAの細胞導入試薬である、Lipofectamine 3000も試した。融合遺伝子は平成27年度に再現性よく生成することがわかった、EML4-ALK融合遺伝子の生成量を見た。その結果、どの力価のウイルスよりもLipofectamine 3000でCRISPR/Cas9ベクターを導入した時の方がEML4-ALK融合遺伝子の生成量が多いことがわかったので、以後はCRISPR/Cas9ベクターの細胞への導入はLipofectamine 3000を用いて行うこととした。また平成27年度の検討によりリアルタイムPCRよりもデジタルPCRの方が融合遺伝子生成量の定量性に優れていることがわかったので、平成28年度からはデジタルPCRを用いることとした。樹立した融合遺伝子生成量の定量アッセイを用いて、融合遺伝子の生成・生成抑制にかかわる因子の探索を行った。主要なDNA修復因子である、DNA-PKcs, Ligase IV, あるいはPARP1に対する阻害剤を細胞に処理したところ、DNA-PKcsの阻害剤を処理した細胞でのみ、EML4-ALK融合遺伝子の生成量がコントロールと比べ有意に減少することがわかった。この結果はDNA-PKcsがEML4-ALK融合遺伝子の生成において重要な役割を担っていることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に融合遺伝子の生成にかかわる分子としてDNA-PKcsを見つけた。DNA-PKcsはDNA二本鎖切断修復経路のひとつ、Classical non-homologous end joining (c-NHEJ)の主要な因子である。そこで、樹立したアッセイを使って、他のc-NHEJ因子である、Ku70, Ku80, XLF, XRCC4, LIG4についても融合遺伝子の生成への関与の有無を調べる。また最近、c-NHEJにResection-dependent c-NHEJとResection-independent c-NHEJの2つのサブ経路があることが発見された(Biehs et al. Mol. Cell 2017)。Resectionとは、DNA二本鎖切断の末端を削ることを指し、Resection-dependent c-NHEJではDNA-PKcsやKu70/80などのc-NHEJ因子に加え、ResectionにかかわるPlk3, CtIP, BRCA1, MRE11, EXD2, Exo1, Artemisなどの因子が働いていることが明らかとなった。そこで平成29年度はc-NHEJの2つのサブ経路のうちのどちらが融合遺伝子生成に関与しているかも調べる予定である。また融合遺伝子の生成抑制にかかわる因子もRNAiスクリーニングにより明らかにしたい。
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