研究課題/領域番号 |
15K00668
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研究機関 | 大阪大谷大学 |
研究代表者 |
井上 美智子 大阪大谷大学, 教育学部, 教授 (80269919)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 保育 / 環境教育 / 生態学的自然観 / ビオトープ / ニュージーランド / 先住民 / オーストラリア |
研究実績の概要 |
幼児期から「生態学的自然観」を育てるために必要な具体的な保育環境と実践方法・内容を提案するという最終目的の下で、Indigenous educationをナショナルカリキュラムにおいても導入するニュージーランドとオーストラリアの保育現場における実地調査を行って先住民族の「生態学的自然観」をどのように保育現場において伝承しているのか、具体的な実践方法、教材、保護者や地域との連携の実態を把握し、同時に、日本の環境教育実践研究園においてビオトープを創出、維持、管理し、保育者や子どもにどのように生態学的自然観の醸成につながる経験が可能になるのかを観察し、最終段階として自然観の伝承の試験的導入を行い、「生態学的自然観」の育ちの可能性を図る。 3年目となる今年度は、上記の目的の下、ニュージーランドとオーストラリアの保育現場の観察の整理を行った。その結果、いずれも先住民のコミュニティ、あるいは、人々との強い連携があること、また、単なるイベントの一時的体験や教材の展示だけではなく、日常的にそれらの人々と連携し、保育の様々な場面で交流を継続することで先住民の文化を学んでいることがわかった。その過程ではその文化資源であるその地域独自の伝承の物語や歌などが効果的に活用されていることがわかった。 環境教育実践研究園でのビオトープは造成後、季節をほぼ二巡した。移入した植物もあるが、自然に生えた植物もあり、小動物も移入していないにもかかわらず多様な種が見られたが、元々の園庭が真砂土でできていることもあり、通常の土地よりも自生する生物が少ないことが明らかになってきた。保育者に向けての勉強会をビオトープ管理士と共に継続しているが、これは効果的であり、保育者が例年まとめる実践報告には従来よりも意識の高い観察が読み取れた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ニュージーランドに2度目の海外調査に行く予定であった。しかし、ニュージーランドのナショナルカリキュラムであるテファーリキが1996年の刊行以来、初めての改訂がなされた。そこで、改訂後すぐの調査よりは現場が受け止めてからの調査が望ましいと判断し、海外調査は次年度に延期することにした。改訂後のテファーリキは持続可能性のための教育という観点から大きな変更があったわけではないが、それでも確実にそれを意識した記載が入った。また、先住民文化と絡めての文脈で語られていることも確認できた。先住民文化を教育全体に取り入れることがナショナルカリキュラムによって定められている両国の優れた先行事例をみる限り、当初予測した通りの結果が上がってきている。 一方、環境教育の実践研究園でのビオトープ造成は、2年間に入ったが、当初予測したよりは自生してくる生物相が貧しいことが明らかになった。したがって、より生物相が豊かなビオトープへ改良していくことが課題であるとわかった。一方、小グループ勉強会を継続することにより、保育者のビオトープに対する恐れは格段に減り、また、保護者が参加する園庭環境を変える「緑育の会」や子どもが自ら選んだ遊びに没頭できる日として「からふるデー」などを開始したことで、保育者がどうすれば子どもの主体的な遊びを生み出せるかに気づく頻度が高まってきた。これにより、保育者から生態学的自然観を持って自然を見る発言がより多く生まれるようになり、ビオトープ造成と育成を通して当初の目的が達成されつつあることが明らかになってきた。以上のことから概ね当初計画通りに進行していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
4年目である平成30年度が最終年度となるので、延期したニュージーランドの海外調査を実施する。マオリ文化を導入した幼児教育の第一人者であるウェリントン大学のリッチー博士にインタビューする準備を整える。また、可能であれば、子どもの権利の観点から研究を進めておられるカンタベリー大学のマッケイ博士にもインタビューをしたい。ニュージーランドの持続可能性のための幼児教育の研究を進めておられるお二人に昨年改定された新しいナショナルカリキュラムについての研究者の視点からの評価や持続可能性のための教育に与える影響についての知見を伺う予定である。 ビオトープについては、昨年度同様に植物相をより豊かにできるよう維持管理をビオトープ管理士と共に実施する。また、ビオトープ管理士による小グループ勉強会を継続する。そのための仕組みを実践研究においていくつか導入しており、ビオトープでの遊びにより子ども及び保育者が生態学的自然観を育てられるように進めていく。特に、保護者の関わる緑育の会を定着させることで家庭も巻き込んだ環境教育がどのように発展していくかが興味深い点である。また、からふるデーは、今年度の後期から月1回程度実施してきたが、保育者たちは手応えを感じており、次年度は月2回から4回実施できるようにと年間計画を考えている。この取り組み自体は環境教育に特化したものではないが、子どもの主体性を十分に認める取り組みであり、ビオトープを起点とした環境教育によい効果をもたらすことが予想される。 海外の事例から得たヒントをどのように日本の文化の中で見つけられるのか、平成29年度から二十四節気と稲作という日本の自然に関わる文化を取り上げ、保育の中での導入を試みている、最終年度はその効果をみる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ニュージーランドの海外調査に行く計画であったが、先述したとおり、ナショナルカリキュラムが改訂されたため、その評価を確認するには時間が必要と考え、1年延期することにした。そのため、ニュージーランド調査の旅費が残っている。一方、ビオトープ管理に関しては、勉強会を継続しているため、申請時の計画よりも管理費用がより多く発生している。しかし、これらは旅費の差額やビオトープ関連の物品購入費の残額等で補填できている。
平成29年度同様ビオトープの維持管理作業をビオトープ管理士に一部業務委託をしながら進めるが、小グループ勉強会が効果的であったため、平成30年度も継続する。ビオトープ維持管理及び勉強会指導のための委託料を支払う。この委託料は昨年通りであるが、現在までに生じた差額で補填できる予定である。また、文献研究を進め、ニュージーランドの2回目の調査を実施する。
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