研究課題
宿主環境中でのヒスタミン産生性の解析を行った。R. ornithinolytica (RO) のヒスタミン産生能がマウス腸管環境中で認められるか否かを確認するため、RO AA097株のノトバイオートマウスを水投与群および1% histidine投与群に分け、大腸内容物中のヒスタミン量をHPLCを用いて定量した。その結果、無菌マウスと比較するとノトバイオートマウスの糞便中にはヒスタミンの存在が認められたが、その検出量は約0.1 mg/Lと極めて低かった。また、ノトバイオートマウスに1% histidineを投与した群の糞便中ヒスタミン量は水投与群と比べると明らかに高い傾向であり、約0.35 mg/L認められた。また、RO AA097株株を嫌気条件下で培養した時のヒスタミン産生性を検討したところ、好気条件下と比べて嫌気条件下ではヒスタミン産生量の低下が認められた。腸内菌由来ヒスタミンによる宿主―細菌クロストークの解明の一環として、RO定着ノトバイオートにおける腸管上皮細胞増殖を調べた。RO AA097株の野生株及びhdc欠失株を4週間定着させた無菌マウスの腸管上皮細胞の形態変化を観察するとともに、細胞増殖能をEdUの取り込みを指標にして蛍光顕微鏡下にて評価した。その結果、空腸・回腸部位の上皮細胞増殖能は野生株及びhdc欠失株のノトバイオート間で違いは認められなかったが、大腸上皮細胞は野生株ノトバイオートにおいて増殖能の亢進が認められた。また、妊娠マウスにRO AA097株の野生株及びhdc欠失株を定着させた後、誕生した幼若マウスの体重変化を4週間に渡って観察したところ、野生株定着ノトバイオート親マウスから誕生したマウスはhdc欠失株定着ノトバイオート親マウスから誕生したマウスと比べて、誕生時の体重が有意に高かった。またその体重差は4週間に渡って維持された。
2: おおむね順調に進展している
研究はおおむね順調に進んでおり、ほぼ計画通りの進捗具合である。本年度の研究実績によりR. ornithinolyticaにおけるヒスタミン産生は大腸内では著しく抑制されること、またin vitroの検討からも好気条件下と比べて嫌気条件下ではヒスタミン産生量が減少することを明らかにしたが、これらの事実はヒスタミン食中毒の病態を考察する上で非常に貴重な所見である。細菌におけるヒスタミン産生制御機構の一端を明らかにすることができたという点においても特筆すべき結果であった。また、R. ornithinolytica の腸管定着による腸管上皮細胞増殖の影響に関しても、ヒスタミン産生性と大腸上皮細胞増殖亢進の関連性を指摘することができた。さらに、ヒスタミン産生性腸内菌の定着と幼若マウスの体重増進とが関係している結果も得られた。このように、腸内菌由来ヒスタミンによる宿主―細菌クロストークに関してある程度明らかにすることができた。
腸内菌由来ヒスタミンによる宿主―細菌クロストークの解明の一環として、R. ornithinolytica定着による宿主細胞遺伝子発現変動解析を今年度行う。R. ornithinolyticaの野生株及びhdc欠失株を無菌マウスに経口投与したのち、小腸および大腸上皮細胞からRNAを抽出し、両菌株がそれぞれ定着した場合の宿主遺伝子発現応答をDNAマイクロアレイ解析により網羅的に検索する。2群間の発現に変化の見られた遺伝子については、定量的PCR法にて発現変動を再確認する。また、R. ornithinolyticaにおけるヒスタミン産生性の生理学的意義について検討する。細菌自身にとってヒスタミン産生は何の意味があるのかについて考察したい。さらに、ヒスタミン食中毒制御の試行についても計画内容通り遂行する。
ほぼ概ね計画通りに支出できでいるが、人件費・謝金の支出がなかったことがあげられる。
これらの金額の使用計画としては、今後の研究の推進方策に沿った消耗品等の支出、および旅費の一部に使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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