骨格筋の優れた適応性は増殖能力を保つ筋衛星細胞を細胞上基底膜下にたくさん含んでいる事にある。強い筋収縮が繰り返され細胞内環境が変わり,また,細胞骨格を介し筋核に物理的刺激が伝わりタンパク質合成が起きたり,筋細胞自体に傷害が起きたりしたときには,筋衛星細胞の活性化・増殖・分化・融合が進み筋細胞の肥大適応や再生が開始する。この時の筋衛星細胞の動態としては,筋細胞が細長い形状の筋細胞(筋線維)が故に,筋衛星細胞の至適場所への遊走性で求められる。しかし,この遊走脳に関する知見は少ない。 本研究では,蛍光性ナノ粒子(Qdot)と細胞マーカーとなる一次抗体との複合体を作成し,挫滅損傷を与えたラット下肢筋(ヒラメ筋)上での衛星細胞の挙動を生体上にて観察してきた。その結果,損傷部から遠く離れた部位においても筋衛星細胞は活性化し,様々な方向への移動が観察されるが,多くの衛星細胞は損傷部方向へ遊走し、特に、損傷部に近いほど損傷方向へ遊走する率が高い値を示めした。損傷部で産生される肝細胞増殖因子(HGF)が筋衛星細胞の遊走を誘発し呼び込む主要因子あると考えらる。再生期の生筋上にHGFの濃度勾配を設け筋衛星細胞の遊走を速度や方向性などから観察した結果,高濃度領域ほど高い遊走能が観察された。 また,損傷後の筋再生には,血管由来の十分な酸素・栄養物質の供給が必要であり,筋損傷が神経筋接合部での脱神経をともなう場合には運動終板上で支配神経との再支配と軸索輸送由来のシグナル伝達物質による連絡も必要とされる。筋衛星細胞の挙動に合わせ,中心核を有する再生筋数比を再生速度として内皮細胞増殖因子活性と,毛細血管数を測定した結果,筋再生と血管新生はほぼ平衡する事が示された。
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