研究課題
背景:肥満は心房細動発症の独立した危険因子である。高レプチン血症は肥満患者に認められるが,高レプチン血症と心房細動との関連性は知られていない。目的:マウスに高脂肪食を与えて誘発した高レプチン血症が炎症性心房線維化および心房細動易誘発性を惹起するかについて検討した。レプチン欠損マウス(Ob)も使用した。方法:8週齢雄性コントロール(C57BL/6)マウス(WT)またはObマウスに高脂肪食(high fat diet; HFD)または通常食(normal fat diet; NFD)を8週間与えた。心臓を摘出し,経食道バーストペーシングによる心房細動誘発およびランゲンドルフ装置を用いた摘出心灌流実験を行った。また左房組織の組織学的検討,hydroxyprolineアッセイ,およびRT-PCRを行った。結果:(1)WT群では,HFDによって,体重,血中レプチン濃度が上昇した。(2)経食道バーストペーシングによって,WT-HFD群では100%(8/8)心房細動が誘発されたが,Ob-HFD群では12.5%(1/8)にしか誘発されなかった(p<0.01)。(3)摘出心灌流実験において,WT-HFD群では心房間伝導速度が低下したが(p<0.05),Ob-HFD群では変化なかった。(4)Masson Trichrome染色およびhydroxyprolineアッセイにおいて,WT-HFD群では左房線維化が認められたが,Ob-HFD群では認められなかった(p<0.05)。(5)RT-PCRにおいて,WT-HFD群では,collagen 1,collagen 3,α-SMA,TNF-α,MCP-1のmRNA発現亢進がWT-HFD群で認められたが,Ob-HFD群では認められなかった。結語:HFDによって惹起される心房線維化および心房細動易誘発性は,高レプチン血症によって促進される。レプチンシグナルの抑制は肥満関連心房細動の新たな治療ターゲットになることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本課題の具体的な計画・方法として,(1)マウスに4 週間高脂肪食を与えると肥満にともない高レプチン血症が生じ,心臓(特に左心房)で炎症性シグナルが惹起され,心房線維化および心房細動易誘発性が生じること,(2)レプチン受容体拮抗薬がこれらの事象を抑制すること,③心臓から線維芽細胞を単離,培養し,レプチンが炎症性シグナルを惹起し,レプチン受容体拮抗薬がこれを抑制すること,(4)グレリン,六君子湯投与が,高レプチン血症による心房細動に対して抑制効果を発揮すること,を段階的に証明する,ことを挙げていた。現時点で,上記の(1)(3)は既に終了しており,順調に進捗している。
高レプチン血症の研究は順調に進んでいる。さらに,(1)肥満に関与する心房細動-膵臓および膵臓由来インターロイキン10の役割,(2)慢性腎臓病における心房細動の発症機序とインドキシル硫酸の役割,についても研究を推進したい。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Circ J.
巻: 80 ページ: 186-195
10.1253/circj.CJ-14-1218