研究課題
本申請課題では、ヒト乳幼児期および思春期における社会性発達において、社会性ホルモンが及ぼす影響について明らかにするために、乳幼児期および思春期の児童を対象に、社会的行動指標、心理指標、内分泌指標のそれぞれが互いにどのように関連し、加齢とともにそれらがどう変化してゆくかという点を明らかにする。研究①では、乳幼児を対象に研究を行い、社会的刺激に対する視線計測、母子間相互作用の測定、ホルモンおよび遺伝子多型の測定、その他環境因子の測定を行い、各指標の因果関係について明らかにする。研究②では、思春期児童を対象に、上記、行動測定、内分泌測定に加え、脳イメージングを実施し、思春期における社会性発達の内分泌-脳-行動連関について明らかにする。研究③では、非定型発達児を対象に、上記指標と社会性や愛着形成との関連性について横断的に検討する。当該年度において、まず研究①では、前年度の乳児に引き続いて、幼児を対象に視線計測による社会行動指標、内分泌指標である唾液中オキシトシン濃度と発達との関連性について検討した。その結果、乳児期と同様に唾液中OTは年齢とともに低下する傾向が確認され、また視線計測では、社会的情報に対する注視時間が年齢とともに低下する傾向が確認された。次に、思春期児童および非定型発達児を対象とした研究②および③では、定型発達児童および非定型発達児童を対象に、表情推定課題従事中の脳機能計測内と内分泌指標との関連性について検討した。その結果、非定型発達群では、唾液中オキシトシン濃度に比例して、社会性に関わる脳領域の一つである後部側頭溝(pSTS)の活動が低下することが示唆された。今後はサンプルは得ているものの未解析であるサンプル・データを追加して、得られた結果の妥当性について検証していく。
2: おおむね順調に進展している
現在までの進捗状況において、まず研究①では、前年度の乳児に引き続いて、84名の幼児を対象に視線計測による社会行動指標、内分泌指標である唾液中オキシトシン濃度と発達との関連性について検討した。前年度に得られた結果を合わせ、乳幼児期全般におけるオキシトシン濃度の発達、社会的情報に対する注視時間の発達、およびそれら両者の関連性について明らかにした。唾液中OTは年齢とともに低下する傾向が確認され、また視線計測では、社会的情報に対する注視時間が年齢とともに低下する傾向が確認された。また、両者の関連性について検討したところ、顔刺激の目領域への注視率と唾液中オキシトシンの間に有意な関連性が認められた。これは、オキシトシン濃度が目領域への注視をコントロールしている可能性を示唆しており、発達に伴い両者は低下するということを示唆している。さらに、オキシトシン濃度に対する遺伝的な個人差による影響を検討するために、オキシトシン受容体多型とオキシトシン濃度および視線パターンの発達との関連性についても検討した結果、多型の違いによりオキシトシン濃度が異なることが明らかとなり、それが2歳以降の視線パターンの違いに関連することが明らかとなった。以上の結果は、英語論文として成果をまとめた。次に、思春期児童および非定型発達児を対象とした研究②および③では、非定型発達児童38名、定型発達児童26名を対象に、表情推定課題従事中の脳機能計測内と内分泌指標との関連性について検討した。その結果、非定型発達群では、唾液中オキシトシン濃度に比例して、社会性に関わる脳領域の一つである後部側頭溝(pSTS)の活動が低下することが示唆された。またオキシトシン受容体との関連では、DNAメチル化に群間差があることが確認され、発達環境の相違を反映しているマーカーである可能性を示唆するデータも得た。
今後の研究の推進方策について、まず研究①では、前年度に引き続き、乳幼児を対象に追跡調査を行い、視線計測による社会行動指標、内分泌指標である唾液中オキシトシン濃度と発達との関連性について縦断的な検討を行う。すでに追跡データについては一部得ているものの、縦断的検討について未解析であるため、これまでの横断的検討によって明らかにされた関連性が、縦断的検討からも再現されるかについて検討する。次に、思春期児童および非定型発達児を対象とした研究②および③では、脳画像データについては一部解析したものの、全測定データとの関連は未実施であるため、内分泌データと相関する脳機能領野について同定する。また、オキシトシン受容体のDNAメチル化については定型発達群と非定型発達群との間で差が認められたため、脳画像解析によりメチル化と関連する脳領域について明らかにする予定である。
28年度に、唾液中のDNAメチル化を分析する際に研究協力が得られたため、メチル化分析、特に前処理などの際に必要な物品費や人件費・謝金を抑えることができたため、その分の未使用額が生じた。
オキシトシン受容体のDNAメチル化に関する研究が予定よりも進捗したため、当初では予定していなかった脳画像との関連性を検討する予定であり、未使用額は、論文化に向けた関連情報収集および研究協力者との打合せ経費に充てることにしたい。
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Scientific Reports
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