本年度は、昨年度に引き続いて、近年の認知心理学の成果を踏まえ知覚における見落とし現象を事例としたフッサールの知覚論の解釈を試みた。それは知覚を真理探究のひな型(認識)として規定するのではなく、日常行為のなかでの一機能として位置づけるものである。 また非自覚的行為に関するフッサールの議論のために、彼の意志論に着目し、その分類および機能について明らかにした。中期フッサールにおいては、作用を知性的作用、感情・心情の作用、および意志の作用として分類分けし、客観化作用として知性的作用、非客観的作用として後者二者を位置づけ、意志作用は心情作用に基礎づけられ、心情作用は知性的作用に基礎づけられた(つまり物の認識にもとづき、その物についての好き嫌いの感情、それによって行為がなされるというモデルが規定される)。 しかしフッサールはそうした枠組みとは別に、そのひな型を自己批判した意志分析を提示している。すなわち意志を願望との違いから析出し、時間論の関わりから、その分類を示している。そこでは大きくは意志を先行意志(決心)と行為意志に区分しており、先行意志については志向-充実の枠組みのなかでなお充実されていない意志が、未来の行為において充実がなされると規定している。それに対して行為意志はすべての行為にどの位相においても伴っている意志契機として規定している。ここでは行為の中での創造性とさらにはそれに対応した知覚における創造性を指摘している。さらに身体を意志の器官として解釈していることから、身体行為における意志と責任の所在についての分析が可能となった。 なおフッサールの意志論に関する哲学史上の位置づけを把握するために、意志論に関する中世から近世までの系譜を辿った。 またフッサール身体論の特に行為に関して、西田との比較研究を行った(2020年度比較思想学会全国大会発表に投稿し、受理された)。
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