本研究は、重要でありながらもこれまでひどく立ち後れていた、江戸時代の歌合を総合的に考察するものである。時代的には幕初から幕末までを対象とするが、適宜、安土桃山期および明治初期までも視野に入れて、江戸期の全体像を見据えるものとする。 初年度である今年度は、研究基盤の整備に重点を置いて、主として近世歌合伝本書目編纂のためのデータ収集作業を精力的に進めた。すなわち、前代の中古(『平安朝歌合大成』)・中世(『中世歌合伝本書目』)の達成を踏まえつつ、従来個々の研究で示されてきた近世歌合の伝本情報の集約と蓄積に努めた。刊本に関しては、あらあら全体像を俯瞰することができるようになったものの、作業の過程で、予想以上に写本が多く伝存している事実を実感させられた。写本に関する伝本情報の把握は、それが地味な作業であるだけに難儀ではあるが、今後も粘り強く作業を継続させて、伝本情報の増補充実を図りたいと考えている。 なお、国文学研究資料館に所蔵されている『歌合部類』(無刊記本・大本20冊)について、「歌合部類/国文学研究資料館の収蔵品(38)」(『文部科学教育通信』384号、2016年3月28日号、ジアース教育新社刊)なる小文をものした。該書は、平安から室町期にかけての三十六種もの歌合を集成したもの。絵も入っていない地味な書物だが、歌合史の概要を知る上ではたいそう便利なものであり、江戸の人びとの教養の形成には大いに役立ったのだった。
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