本研究は、重要でありながらもこれまでひどく立ち後れていた、江戸時代の歌合を総合的に考察するものである。時代的には幕初から幕末までを対象とするが、適宜、安土桃山および明治初期までも視野に入れて、江戸期の全体像を見据えるものとする。 3年目である今年度は、これまでの蓄積を継承しながら、近世歌合伝本書目編纂のためのデータ収集作業を精力的に進めた。とは言え、写本の伝存量の把握はなかなか難しいものがあり、引き続き粘り強く作業を継続させることで伝本情報の充実に努める予定である。 なお、研究成果の一端を、龍谷大学仏教文化研究所主催の2017年度第6回研究談話会において研究発表した。神作研一「近世歌合の諸問題」(2017年10月27日(金)、於龍谷大学大宮学舎)。歌合が堂上(とうしょう)ではほとんど行われていないこと、江戸中期以降、地下(じげ)において隆盛を見る(褒貶歌会あるいは衆議判の歌合をとることも多い)こと、派閥の領袖の和歌観・作法を知るためには判詞の集成とその精読が欠かせないことなどを指摘した。聴衆は中古・中世・近世の和歌研究者たち15名で、発表後の質疑応答により彼らから示唆に富んだ種々の教示を得られたことは大きな収穫であった。また、香川黄中(景樹の養父)の独吟にかかる『香川景柄独吟新歌合』ほかを紹介して、「香川黄中の位置」なる小論をものした。後者の成果は2018年度中に公刊される予定である。
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