本研究では、これまで共通の枠組みのなかで問題にされることの少なかった、語本来の意味での「クレオール」(=植民地生まれの白人)の作家に焦点を合わせる。具体的には、フランス系アルジェリア人の子として生まれたカミュ、植民地に派遣されたフランス人教師を両親として仏領インドシナに生まれたデュラス、そして18世紀末にモーリシャス島へ移住し20世紀初頭までそこに根を下ろしていた家族に生まれたル・クレジオである。これらの作家は、いずれも自らの生まれ育った土地においては余所者の白人でしかなく、かといってフランス本国に帰属意識を持つこともできず、二重の外在性のなかに生きることを余儀なくされ、「支配者」とも「被支配者」とも異なる視点から植民地を見ているだろう。彼らの文学における植民地の表象が、エグゾティスム文学に見られる「支配する側によって外側から描かれた植民地」や、フランス語圏文学に見られる「支配される側によって内側から描かれた植民地」とどのように異なり、どのように重なるのかを考察することによって、植民地帝国主義の膨張から脱植民地化にいたる18世紀から現代までのフランス文学に新たな視座を引き入れることが本研究の目的である。 最終年度の研究においては、前年度に引きつづき対象とする作家の作品分析を行うのと並行して、デュラスが少女時代を過ごしたヴェトナムや、ル・クレジオの生まれ育ったニースを訪れて資料の調査・収集を行うとともに、マルセイユの地中海文明博物館、ナントの歴史博物館、パリの移民歴史博物館などにおいてフランスの植民地貿易や移民の歴史について知見を広げることによって、「移住者の子孫として植民地にルーツをもつフランス人作家による文学」の特徴を総合的に捉えることを試みた。
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