本年度は科学研究費補助金「国家変容と国民形成運動に関する動態的研究:近代ハンガリーにおける「民衆」」(基盤研究(C)平成27~30年度)の最終年度であった。2018年4月には近代ハンガリーを代表する作家の一人であるコストラーニの短編17編の翻訳を出版し(『ヴォブルン風オムレツ――コストラーニ・デジェー短編集』未知谷2018年4月)、解説論文「コストラーニ文学の普遍性――近代ハンガリーという特殊性のなかで――」を発表し、20世紀初頭のハンガリーにおけるハンガリー文学界の状況を分析し論じた。 本研究課題である国家変容と国民形成の問題において、この時期は第一次世界大戦の勃発とハプスブルク帝国(オーストリア=ハンガリー二重君主国)の崩壊、これに続いて1918年の社会民主革命と1919年の共産主義革命と両者の短期間における失敗、1920年のトリアノン条約によるハンガリー国土とハンガリー民族の分断、そして王制復古という複雑な国家変容が生じた時期であった。多くの作家がさまざまな理念を掲げ、文学団体の結成や活動を通して政治に関与し、政変のたびに作家らの運命も浮き沈みした。コストラーニという政治的立場という観点からは一見合理性に欠ける作家の活動と作品を通じて、文学とイデオロギーの諸相を分析した。 以上について、「中欧の現代文学」と題するシンポジウム(2018年6月8日東京大学)でも発表した。また,さらに20世紀初頭ハンガリーの政治思想と諸文学団体の活動について、日本ウラル学会第45回研究大会(2018年6月30日大阪大学)でも発表を行った。 2018年9月にハンガリーでおもに20世紀初頭の文学に関わる資料収集と行うとともに,コストラーニ・デジェーの故郷セルビアのスボティツァを訪れ,研究者交流と現地ハンガリー語新聞の取材で日本におけるハンガリー近代文学紹介の状況を紹介した。
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