本研究は3年の研究期間中に次のようなことに取り組み、成果を上げてきた。まず、台湾における日本語作品の学術研究上の受容形態を分析し、台湾文学としての注目度を確認した。次に、日本語原文よりも中国語訳を通して読まれていることの問題点として、戦後の歴史観に制約を受けかねないことを指摘した。最後に、王昶雄という作家が1943年に書いた作品「奔流」を取り上げることにより、民族道徳的批判を避けるために作者によって意図的改稿をされた可能性や、「台湾人」「内地人」「日本人」といった固有名詞に関する翻訳がたとえ意図的でなくても本来の意味とずれている可能性を明らかにした。
|