研究課題/領域番号 |
15K02514
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
町田 健 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (60190378)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ラテン語 / 語順 / 構成素 / 文の意味 / 単文と複文 / 場面の転換 / ギリシア語 / フランス語 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、ラテン語の代表的テキストである LiviusのAb urbe condita「ローマ史」、CiceroのDe officiis「義務について」、AugustinusのConfessiones(告白論)について、これらの作品を構成している文における単語の配列規則の傾向を観察した。その結果、どの作品においても、単文に関しては「主語+目的語+動詞」が基本語順であるが、複文に関しては、埋め込まれている文が動詞の目的語である場合には、主語と動詞の間に長い従属節が入り込むと、文全体の意味を理解する過程が阻害されるため、しばしば「主語+動詞+目的語従属節」という語順になることが確認された。また、基本語順と一致しない語順、特に、顕在的な主語を含む文であるのに、動詞が文頭に置かれる場合が比較的高い頻度で観察されるのだが、この語順は、場面や話題の転換を表示する機能を持つ傾向があることが分かった。また、ラテン語の特徴である、「名詞句の要素1+前置詞+名詞句の要素2」という、支配する名詞句の間に前置詞が挿入される語順についての観察も行ったが、この語順が選択される条件については、まだ十分に解明することができていない。ラテン語の文語が形成されるのに強い影響を与えたギリシア語についても、その語順を観察してみたが、同じ屈折語であるのに、ギリシア語では動詞が目的語に先行する語順が比較的多い。ラテン語とギリシア語の語順におけるこの相違についても、原因を解明したいと思っている。また、ラテン語から派生したフランス語は、名詞の格変化を失ったために、古フランス語の「何らかの要素+動詞+他の要素」というゲルマン語的な語順を経て、現代フランス語の「主語+動詞+目的語」という語順が形成されているのだが、ラテン語とフランス語のこの相違をもたらした言語的要因についても考察が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラテン語の散文は、ギリシア語の影響を受けて発達したものの、文語としての彫琢を目指したため、予想される基本的な語順と一致しない語配列を示す文が非常に多い。このような文を理解し、逸脱的な語順が選択された理由を、それぞれの場合について検討することに時間を要した。また、屈折語が示す語順の傾向は「主語+目的語+動詞」であり、その理由は、この語順が文の生産と理解の過程で最大の効率性をもたらすからだと考えているのだが、同じ屈折語であるギリシア語が、必ずしも同じ傾向を示さないことを確認しており、効率性の原理のみでは、語順の選択を説明することが困難であることが分かった。これについても考究を進める必要があり、その点でも時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
①平成27年度に分析したラテン語作品に加えて、CaesarやTacitusなどの歴史叙述、Ciceroの弁論、Plautus, Terentiusの劇作品など、できるだけ多様な範疇に属するテキストを分析することにより、ラテン語に関する、より一般的な語順の規則を記述し、その理由を解明することを目指したい。 ②語順に関しては、前置詞句や名詞句のような、文の下位に位置する単位についての考察も行う予定である。 ③テキストにおける語順の一般的な傾向を解明した後では、その語順が選択された理由を、文の構造と意味との関連という観点から解明することを目的としたい。その際には、ラテン語だけでなく、ギリシア語やロマンス諸語の語順との比較が重要になるので、この点の研究も進めるつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度中に、資料収集と学会出席のためにフランスに出張する予定であったが、首都パリにおける2回のテロ事件のため、当該年度における渡航を自粛した。このため、予定していた旅費の支出がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度中に、フランスへの渡航を実施する予定であり、このための費用として使用することを計画している。
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