最終年度において前年度の調査結果に不足している部分を補足し、情報の更新や現地の専門家たちと一緒に内容の確認を行った。 出張先はタイ、カンボジアとシンガポールであった。タイでは新しい憲法の形成過程を調査し、その人権条項の内容と性格を理解すると同時に現地の憲法学者や人権法の専門家とも意見交換を行った。カンボジアでは現行憲法の人権条項の実施やその国際人権法との整合性について現行の専門家に聞き取り調査を行った。シンガポールではアセアン地域の法整備と人権宣言をめぐる最新な議論や研究成果について情報交換を行った。 最後の取りまとめとして2018年2月末にプノンペン市内に開催されるワークショップや比較法学会において本研究調査に十分カバーされていなかった国の情報収集を行うためにアジアの憲法を研究している香港大学法学部のDavid Law教授やベトナム人憲法学者及びマレーシア憲法学者を招き、最新の研究成果を発表し、議論を行った。 3年間にかけて本研究を行うことによって明らかになった点と今後の課題として残される問題は、以下のように述べることができる。 (1) 1990年代以降の憲法制定においては、国際人権法の発展が注目され、その文言の国内法への導入や国際条約との整合性について議論される傾向がみられる。(2)しかしながら、タイとカンボジアの事例をみた限りでは近年の実施傾向には文言の狭い解釈や政治的な配慮を優先させ、国際規範の国内適用に様々な課題もみられている。それはかならずしも学識の問題や実務家の能力の問題にとどまらない。マレーシアでは比較的に立憲主義の歴史が長いにもかかわらず、国際人権法とりわけ少数民族の財産に対する法的な防護という観点からみても国際基準との整合性について批判的な評価が多い。(3)アセアン人権宣言の誕生は注目され、人権規範の地域化に対する期待もあるが、学界においてほとんど否定的である。
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