研究課題/領域番号 |
15K03171
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒巻 匡 京都大学, 法学研究科, 教授 (50143350)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 証拠開示 / 刑事訴訟 / 公判前整理手続 / 当事者追行主義 / 迅速な裁判 / 防御権 |
研究実績の概要 |
本研究は、刑事証拠開示制度の設計の在り方について、従前の理論・比較法制度・導入された現行法制度の運用状況・訴訟関係者の問題意識等を踏まえた包括的検討を加え、現行制度に改善変更を要する事項の析出と、改善の方向について具体的提言を行い、刑事司法制度の健全な作動・運用に一層資する証拠開示制度論を再構築しようとするものである。 研究期間の2年目に当たる平成28年度においては、前年度から収集を継続し随時読解を進めているアメリカ公判前証拠開示法制とイギリス公判前手続法制に関する最新の情報収集に努めると共に、散見されるこの問題に関連する邦語文献をも読解した。前年度の実績概要にも記したとおり、比較法制度の観点からも理論的・実務的観点からも、邦語文献の学問的基礎は脆弱であり、あらためて、できるだけ早い段階で、本研究の進展を踏まえた論説文を公表するべくその準備を進めた。 また、申請者が委員として直接審議に参画した法制審議会刑事法特別部会の議を経て答申された証拠開示と公判前整理手続に係わる刑事訴訟法改正案は、平成28年中に成立し、当該部分は既に施行されるに至った。このため、当該部分を含む新立法(新時代の刑事司法制度立法と称されている)全体について、比較的詳細な条文解釈と運用論に係わる解説を執筆し、公表した(後記) 。また、証拠開示法制を含む新立法の意義と運用に係わる実務法律家との座談会(後記)に出席し、特にこの領域の運用について発言した。 さらに、証拠開示と公判前整理手続運用の現状については、東京地方裁判所及び司法研修所刑事裁判官研修部門と数回の意見交換を行い、その実情を踏まえた講演を司法研修所において2回実施した(後記)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記したとおり、重要な比較法的素材であるアングロ=アメリカ法圏の最新の制度と議論状況の概要はほぼ把握できているので、本研究課題の核心部分である、最新の比較法的知見を踏まえた、大枠の議論の再検討と、個別具体的法的諸問題についての、解釈論的・立法論的議論の構築に向けた基礎的準備作業は、ほぼ順調に進行していると認識している。もっとも、後記のとおり、前年度に計画していた、比較法的素材をヨーロッパ大陸法圏に拡大し、その実務上の問題を把握する作業はいまだ十分に達成できていない点、ならびに、施行が開始されて間がない検察官証拠一覧表交付制度の運用状況が、いまだ的確に把握できていないため、これを補充する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度においては、比較法的視野を一層拡大する目的で、ドイツ法及びフランス法の公判前における証拠の収集・保管及び両当事者間の準備に係る手続法制の細目を文献読解により正確に解明する作業を本格化すると共に、可能であれば、フランスの刑事証拠管理・保管および弁護士による事前閲覧に関する具体的な実務を見分・調査するための海外調査を計画する予定である。 また、前記のとおり、施行が開始されて間がない検察官証拠一覧表交付制度が、公判前整理手続の健全・的確な作動の障害となる事案が生じているとの裁判実務家の意見も聴取したところであり、この問題についての的確な解決について、これまでの立法趣旨に関する研究成果を基に、速やかな実情把握とこれを踏まえた論説文の公表を先行させることも検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
複数巻に及ぶアメリカの書籍の納品が4月になったことに加え、大学の公務(本部役員)が継続中のため、年度末に計画していた欧州海外出張調査を現実に実行することができなかったこと。
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次年度使用額の使用計画 |
一部は、29年度前半期に、書籍代金として支出される見通しである。また、一部は、29年度夏期または年度末に実施を予定している海外出張調査の旅費等に支出される見込みである。
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