本研究は、刑事証拠開示制度設計の在り方について、従来の理論・比較法制度・導入された現行法制度の運用状況等を踏まえた包括的 検討を行い、現行制度に改善変更を要する事項の析出と、改善の方向性について具体的提言を行い、刑事司法制度の健全な作動・運用に一層資する証拠開示制度を再構築しようとするものである。 研究期間の最終年に当たる平成30年度においては、収集を継続してきたアメリカ公判前証拠開示制度及びイギリスの公判前手続法制とその運用に関する資料の読解を進め、両国の制度及び運用の最新の状況をほぼ網羅的に把握した。他方、比較法的視野を拡大し、捜査段階で収集集積された事件に関する証拠・資料の保全管理と訴訟関係者への開示・情報伝達という観点において共通する大陸法圏の状況を把握するため、フランス及びドイツの関連文献の収集と読解を継続すると共に、職権主義刑事裁判の前提として、捜査段階で収集された証拠等一件記録が、実務運用上どのような方策により保全管理され、公判裁判所と検察官・弁護人等訴訟関係者に事前に開示されているのか、その詳細を知り、実務技術上の工夫や問題点を正確に把握するため、29年12月にフランス共和国の訪問聴取調査を実施したが、今期の前半においては、そこで得られた知見について、調査協力を得た稲谷龍彦京都大学准教授の助力を得て、重要事項の整理検討を行った。特に重罪事件における専属書記官の専門的証拠管理と軽罪事件における警察捜査資料の電子化を通じた保全については、いまだ正確な紹介がないので、独立して紹介論文を執筆するための準備作業を進めた。 最終的な研究目標である理想的制度構築に関する提言はいまだ論文の形に結実してはいないが、これまでの研究成果や比較法的分析を踏まえても、微調整的修正はあるとしても、現行制度の基本的な理論的枠組に根本的変更の必要性は乏しいというのが、暫定的結論である。
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