今年度は、研究計画に従って、大きく分けて2つのことを行った。第1に、昨年度に引き続き、先行研究においてモデル不確実性回避度を計測するために用いられたdetection error probabilityと呼ばれる確率値の解析的計算手法の精緻化と拡張を行った。先行研究ではdetection error probabilityをシミュレーションによって計算していたが、今年度は新たに価値関数が独立同分布に従う確率的ショックの線形関数として表現できる場合に、detection error probabilityが累積分布関数を用いて計算可能であることを明らかにした。加えて、この結果をもとに、消費の確率過程がランダムウォークとトレンド定常過程に従う場合のdetection error probabilityに対して、デルタ法を用いて標準誤差を計算できることを示した。これらの研究成果をOn the Computation of Detection Error Probability under Normality Assumptionsという論文にまとめ、査読付国際雑誌に投稿した。第2に、以上の手法を応用することで、モデル不確実性回避度の国際比較を行った。具体的には、昨年度までの成果を踏まえ、モデル不確実性を考慮した消費変動の厚生費用がdetection error probabilityの累積分布関数によって表現可能であることを利用し、厚生費用の推定値と標準誤差を求めた。データの欠損の制約から最終的に先進国と発展途上国を含む22カ国を対象とした結果、新興国や発展途上国で特に値が大きく、先進諸国間でもある程度のばらつきが存在することが分かった。以上の成果は、本研究を通じて初めて明らかになった知見と考えられる。
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