研究実績の概要 |
本研究は、近年の企業の非財務情報から財務情報への関係性を結びつける価値創造プロセス(ビジネスモデル)について、企業の中長期的展望を視野に入れた受託責任(Stewardship)に基づく企業の説明責任をより一層促進する、という企業情報開示のあり方について、特に先駆的な英国2006年会社法の戦略報告書の実務・制度を手掛かりに考察・提示しようとするものである。 具体的には、ソフトローを重視する英国で、戦略報告書の作成義務がなぜハードローである英国2006年会社法で規定されたのか、第172条の取締役の義務(会社の成功を促進する義務)がこれまでのコモンローから成文化された意義について、その必然性を解明した。戦略報告書の目的は、第172条の取締役の義務をどのように果たしたのかを社員(株主)に通知し、社員の評価に役立てるための取締役の報告手段といえる。 さらに、英国独自の信託法理(Trust)、受託責任(Stewardship)、トラスティーシップ(Trusteeship)の関係性の解明を試み、コーポレートガバナンス理論の類型化を提示した。 英国のコーポレートガバナンスの考え方では、「遵守又は説明」原則(Comply or Explain)が貫かれている。この確立された規範への準拠性について4つの類型化(Comply or Else, Comply or Explain, Apply or Explain, Apply and Explain)を指摘し、その発展経路依存を南アフリカの上場規程キングコードと比較して解明を試みた。 一方で、英国法と米国法の不一致を指摘し、英国の信託法理が株式会社制度や受託責任制度の基礎となっていることを指摘した。
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