研究課題/領域番号 |
15K03912
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
日詰 一幸 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (30241152)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フードバンク / NPO法人 / 生活協同組合 / 行政機関 / 台湾 / キリスト教会 / 生活困窮者自立支援法 / 食品ロス |
研究実績の概要 |
日本におけるフードバンクの役割や機能に関し、平成27年度の調査をもとに検討を行った。その際、設立主体に関しては、NPO法人、生活協同組合、行政機関の直営、さらには法人格の無い市民活動団体があることを明らかにし、設立主体に応じた活動の特徴を整理した。 また、海外におけるフードバンクの調査として、東アジアに位置する台湾におけるフードバンクの現地調査を実施した。台湾のフードバンクは、法人格としては社団法人であるが、キリスト教系のフードバンクが多いことが判明した。今回現地調査をした台北のフードバンクは、生活困窮者支援の中でも、子どもに焦点を当てた活動を展開しており、市内の複数のキリスト教会が連携して運営している。この点が日本との違いとして浮かび上がった。しかし、運営に資する費用の捻出に当たっては、相当な苦労があり、その点は日本と同様の課題を抱えていることが判明した。とはいえ、食糧調達の基本的な枠組みは日本と同様に、市民や企業からの支援が多かった。 平成27年度、28年度の2年間の研究を通じて、行政の関わりにも焦点を当てて検討を進めた。日本で行政が関わる場合、平成27年4月から施行された「生活困窮者自立支援法」との関連からフードバンクへの関わりが目指されることになり、行政の手の及ばない部分をフードバンクが担う構図を明らかにすることができた。 一方、日本におけるフードバンクの場合、環境面における「食品ロス」の削減を主目的とした運営をめざす場合もあり、「福祉」と「環境」双方の課題解決にフードバンクが活動を展開している面も明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、海外におけるフードバンクの比較ということで、アメリカでの現地調査を検討してきたが、近年はアメリカにならい、東アジアでもフードバンクの取り組みが進められていることが判明した。そのため、平成28年度は台湾の台北市を訪れ、国立政治大学民間非営利組織調査センターにおいて、台湾における非営利組織の活動実態を調査するとともに、フードバンクとして活動を実施しているANDREW Charity Associationを訪れ、担当者からヒアリング調査を実施した。これらの調査により、台湾における「生活困窮者支援」の実態を調査することができ、日台との比較の視点を検討する機会を得た。
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今後の研究の推進方策 |
これまで2年間の調査研究を経て、日本におけるフードバンクの設立主体の多様性を把握することができた。そして、その設立主体毎の活動の特徴も整理することができた。このような研究過程において、「生活困窮者支援」を中心とする「福祉」面での活動を主体とする団体がある一方で、「食品ロス」の削減といった「環境」面での活動が主体となり、副次的に「生活困窮者支援」を実施する団体があることが明らかになったが、双方の団体とも、行政からの支援を受けることが難しい状況の中にあって、行政との接点をいかに確立することができるのかという点が課題として浮かび上がった。 そこで、最終年においては、民間ベースで活動を展開しているフードバンクの活動に行政がどのように関わりを持つことができるのか、その点を明らかにすることが必要になった。手がかりとしては、福岡県環境部循環型社会推進課が進めているフードバンク活動の普及、推進活動が参考になることが分かった。そのため、この面での研究を深めていく予定である。 また、東アジアでの比較研究の視点も有意義であることが平成28年度の研究から明らかになった。そこで、最終年は台湾の現地調査を行政とフードバンクとの接合という点に絞って再度実施する予定である。これらの調査研究結果は、静岡大学人文社会科学部の紀要に報告することとし、日本のフードバンクの現状を記した小冊子の編纂も行う。さらに、他の東アジア諸国でのフードバンク活動については、平成30年度の科研費の申請に委ねたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、海外のフードバンクの比較研究としてアメリカのフードバンクを現地調査することにしていたが、東アジアにおけるフードバンクもアメリカのフードバンクを参考に設立されていることから、渡航先を台湾に変更したため、旅費が削減された。 また、謝金として計上してあった、訪問先での謝礼であるが、日本・台湾双方とも研究活動に伴う協力ということから、謝金が発生しなかったことが大きな要因である。加えて、物品費での書籍の購入も洋書の入手に手間取り、計画どおりの支出とはならなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度が最終年となるため、平成28年度実施した台湾を再度訪問し、台北以外にも台中や台南地域で活動するフードバンクでの現地調査を実施し、日台のフードバンクの比較研究を進める。また、研究旅費に余裕が出た場合には、香港へも訪問し、日台中3国におけるフードバンクの比較研究の端緒としたい。 さらに、東アジアにおける生活困窮者支援政策の推進に対する文献を購入して、比較研究推進の糧としたい。
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