研究課題/領域番号 |
15K03972
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
副田 あけみ 関東学院大学, 社会学部, 教授 (60154697)
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研究分担者 |
土屋 典子 立正大学, 社会福祉学部, 准教授 (60523131)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高齢者虐待 / チームアプローチ / 機関間協働 / 多機関チーム / チームワーク / ケースカンファレンス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高齢者虐待の予防と対応におけるチームワーク促進のモデル構築である。 本年度は、多機関から成るネットワーク型チームの形成モデル案を構築するにあたり、オープンダイアローグやリフレクティング・プロセスの研究、組織論や心理学におけるチームワーク論について検討した。その結果、高齢者虐待対応におけるチームワークとしては、よりよい対応ができるというタスク遂行の効果という側面だけではなく、虐待対応という困難な対応であるからこそ、メンバーの相互信頼や納得感といった情緒的な側面を重視する必要があると考え、オープンダイアローグおよびリフレクティング・プロセスの考え方と方法を一部取り入れた多機関ケースカンファレンス用の様式を作成した。 これを活用して試行的に行った4回のケースカンファレンスの結果、この様式の活用により、他者の意見を丁寧に聞くことができる、自分の意見が言いやすい、感じていることを言語化して共有できる、認識や意見に違いのあることを理解しやすい、その違いを認めつつ対話を重ねることで意見のすり合わせが行われ、共通認識を図っていくことができる、という利点のあることがわかった。また、こうした話し合いにより、事実の見落としが軽減される、ある程度の幅のある安全ラインと目標のイメージを共有でき、次の対応を考えやすくなる、対応の見通しや課題までを話し合うことで担当者の不安が緩和されるといった効果のあることもわかった。 上記の利点が、納得感や相互信頼といったメンバーの情緒的満足につながるのか、つながるにはどのような要因がさらに必要なのかを検討し、これらの点を明らかにする調査の準備に取り掛かっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である平成27年度は、文献研究をもとに、高齢者虐待対応におけるチーム形成モデル案を構築し、それについて、3つの自治体の地域包括支援センターと行政機関の専門職に、専門的見地から意見を述べてもらう予定であった。 高齢者虐待対応の実践現場においては、どの機関がチームを組んで初期対応をするのか、どの時点でチームメンバーを拡大するか、といったチーム形成については、自治体ごとに明示的あるいは暗黙のガイドラインをもって動いている。しかし、チームとして対応するメンバーにチーム意識が薄く、チームではなく単独で対応していたり、事例対応過程においてメンバー間に不満や不信が生じるといったことが起きている。そこで、チームワークの形成・展開のモデル案を構築することにした。 多機関ケースカンファレンス用の様式を用いたケースカンファレンスの継続というモデル案について、専門職に個別に意見を聞く計画であったが、この様式を用いたケースカンファレンスを4回試行することができたので、実施後に自由記述式のアンケートをとり、より多数の専門職から本様式に関する意見を提示してもらうことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、多機関ケースカンファレンス様式を用いたケースカンファレンスの継続が、次の3点を促進するかどうか明らかにするための調査を行う。①虐待事例に対する早期介入や悪化防止といった多機関チームワークのタスク遂行機能、②相互信頼やチーム対応への納得感といったメンバーの情緒的満足感、③メンバー間の相互支援や役割収束。 調査対象は、平成24-26年度科研費助成による協働技法調査に協力した自治体を中心に、3~4の自治体に本様式によるケースカンファレンスの実施を呼びかけて、協力してくれる自治体を募る。調査方法は、まず、ケースカンファレンスの実施にあたって私たちがそのやり方について研修を行う。その後、協力自治体に2回以上のケースカンファレンスを実施してもらう。毎回のケースカンファレンス終了後に、上記の3点を評価する尺度を用いた質問紙調査を参加者に対して行い、その変化を測定する。また、参加者に対する面接調査も実施する。 施設内虐待予防におけるチームワーク促進手法のモデル案構築については、解決志向のマネジメント論やAI(アパレシアティブ・インクワイアリィ)等をもとにモデル案を作成し、その妥当性について数人の施設管理職や専門職に意見を求める。その後、モデル案に基づく研修を2~3の施設において試行的に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
家庭内高齢者虐待対応におけるチームワーク形成モデル案の評価として、地域包括支援センターと行政機関の専門職を10名程度研究会に招き、専門的見地から本モデル案に関する意見を述べてもらい、謝金を支払う予定であった。だが、地域包括支援センターおよび行政職員を対象とするモデル案活用の試行的な研修において、自由記述式アンケートを活用することができ、モデル案に関する評価を幅広く得ることができた。そのため、予定していた10名程度の専門職全員からの評価を得なくてもよいと判断した。予定していたうちの基幹型地域包括支援センターの職員2人からは、モデル案に関する意見、評価を聞いたが、謝金の受け取りは希望しなかったため支払わなかった。 施設内高齢者虐待予防研究においては、分担研究者が入院治療・療養を余儀なくされたため、研究を進めることが困難であった。そのため、計画どおりには支出が行われなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
多機関ケースカンファレンス様式案を用いたケースカンファレンスを3,4の自治体で実施し、この様式の活用がチームワーク形成・展開に役立つかどうかを質問紙調査と面接調査によって検証する。ケースカンファレンスは最低でも2回実施してもらい、その都度、質問紙調査を行う。また、3か月後にはケースカンファレンス参加者への面接調査を実施する。面接対象は、当初、1か所に付き1人を予定していたが、多職種から話を聞くために3人程度と数を増やして行うことにする。面接調査内容のテープ起こしは業者に依頼する。 施設内高齢者虐待予防におけるチームワーク促進および組織マネジメントのモデル案作成のため、文献の追加購入と、作成した組織マネジメントのいくつかのモデル案について、施設管理職等から専門的見地からの評価を受け、謝金を支払う。また、モデル案に基づく研修を試行的に実施する。
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