研究課題/領域番号 |
15K04411
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
中村 光一 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (80225218)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 数学的プロセス / 授業 / 評価 / 質的研究方法 |
研究実績の概要 |
質的研究方法を用いて,授業で実際に実現された数学的プロセスを捉え,それをもとに数学的プロセスを授業において評価する枠組を開発するために,平成29年度には,3つの課題を設定した。課題1は授業データの収集と分析を継続すること,課題2は,学習者のデータの収集と分析を継続すること,課題3は授業データをもとに構成した概念を理論的に検討することである。 課題1については,昨年度から継続して意図的なデータ収集を行った。特に,数学的内容と数学的プロセスのかかわりの重要性が昨年の結果から明確となった。そのため数学的内容と数学的プロセスのかかわりを明確にする教材を2つ開発してきたが、今年度は2つ目の教材に基づく授業を実施し、データを収集した。同時に、授業収集データの機会を多く取り、数学的プロセスと内容のかかわりを考察するために適した2つの授業のデータ収集ができた。一つは中学校での授業データであり、他の一つは教育実習生の授業データである。特に、教育実習生の授業データで数学的プロセスが顕著にみられる事例が出現した。 課題2については,学習者のデータを同時に収集した。昨年度より行っている授業のなかで主に扱われる解決と異なる解決をした子どものデータの収集を継続した。 課題3については,昨年に引き続き,社会的相互作用論を、状況論を理論的前提として,課題1,課題2において収集してきたデータと理論的概念とのすりあわせを継続して実施している。当時に新たに数学教育における考え方の研究の再検討を実施し,その結果と合わせて理論的概念を構築しつつある。 結果として,数学的内容と数学的プロセスのかかわりを明確にする教材に基づいた授業を実現し、数学的プロセスが数学的内容との関係で捉えられた。さらに数学教育の数学的考え方に関する先行研究を再検討することで理論的概念の構築を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的に対して,平成29年度は3つの課題を設定した。課題1は授業データの収集と分析を継続することであり,意図的な授業データの収集,特に,開発した教材をもとにした中学校での授業データの収集が有益であった。中学校の教材は速算の可能性を探究する問題である。中学校での授業を1度実施し、そこでの授業データの分析を進めた。式のよみをもとに数学的プロセスを実現する過程が顕著に表れることがわかってきた。小学校で昨年実施した式のよみの授業と合わせて検討を始めた。また、教育実習生のデータからも興味深い数学的プロセスをみることができた。 課題2は学習者のデータを収集するために昨年から実施した方法,授業で中心的に扱わない解決方法をする子どもを特定し,その子どものデータを収集する方法をとることを継続した。学習過程が明示的に捉えられることがわかってきた。また,同時に,授業で直接扱わない方法をした子どもの学習が成立するための条件を明確にする課題が新たに生じた。 課題3は授業データをもとに構成した概念を理論的に検討することであった。課題1,課題2での新しいデータ収集が課題3の研究進捗の可能性を高めている。そして,理論的概念の一部として,対象と方法という観点が数学的プロセスを記述するために有用であること、同時に、数学教育における数学的考えたについての先行研究の再検討をし、対象と方法という理論的概念とのかかわりを考察したことで、授業での評価枠組みの構築への示唆が得られた。 本年度予定した3つの課題についてそれぞれに結果が得られたことと,その結果が次に研究を進めるうえでの見通し、新たな課題を提供しているため,順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には,3つの課題を設定している。課題1は開発した教材をもとにした授業の実施と授業データの収集と分析を継続すること,課題2は,新しい方法による学習者のデータの収集と既存の方法による学習者のデータの収集を実施し,それらの分析を統合すること,さらに簡便なデータ収集の方法を開発すること,課題3は理論と授業データをもとに構成した概念,対象と方法を授業データを通して精緻化することである。 課題1については,数学的プロセスと数学的内容のかかわりが顕在化する教材の開発とそれによる授業の実施を推進する。同時に,教育実習生の授業のデータに興味深い数学的プロセスがみられたように,様々な授業データ収集の機会を継続する。 課題2については,新しい方法で収集したデータと既存の方法で収集したデータの分析を通して,それらの方法で得られるデータの特徴をさらに明確にする。同時に、昨年と生じた授業で直接扱わない方法をした子どもの学習が成立するための条件を明確にすることが課題である。 課題3については,昨年に引き続き,社会的相互作用論と状況論とのかかわりで,数学的プロセスを記述するための対象と方法の概念に精緻化を進める。同時に、我が国の数学教育の先行研究である数学的な考え方に加えて数学的推論についての国際的な研究も参考にし、授業評価のための枠組みを構築する。 授業データの収集とその分析の反省を繰り返すことで,新しいデータ収集の方法に気づいてきた。データ収集の反省を適切に継続することで新たな可能性を探っていくことが課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に成果を発表するための英文の論文を作成した。その論文の英文校閲を実施する時期が3月末から4月初旬にずれ込んだために、次年度使用額が生じた。英文校閲が完了した時点で年度初めに予算をすみやかに執行する予定である。
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