研究課題/領域番号 |
15K04593
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
八尾 浩史 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (20261282)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 円二色性 / 磁気円二色性 / 金属ナノクラスター / 金属ナノ粒子 / 非磁性金属 / マグネトプラズモン / 魔法数 |
研究実績の概要 |
金属ナノクラスターのキラル化学に関わる研究を発展させ、様々なサイズや形態・組成を持つ非磁性金属(貴金属)ナノ構造(ナノクラスターからナノ粒子まで)の化学合成、魔法数分画、作製されたナノ構造体の同定や不斉光学応答(CD)、磁気円二色性(MCD)測定を中心とする円偏光を利用した測定とその電子状態の高精度解析、更には金属ナノ粒子の磁場環境下でのプラズモン応答(マグネトプラズモン)の特性を明らかにする事が本研究の重要な目標である。平成27年度は、①様々なチオール保護貴金属ナノクラスター、ナノ粒子の化学合成・魔法数分画、及びその同定、②そのナノクラスター・ナノ粒子のCD、MCDの評価と電子状態に関わる研究を実施した。具体的には、水溶性チオール配位子(グルタチオン)で保護されたAuやAg、あるいはヘテロ原子がドープされたナノクラスターの作製とポリアクリルアミド電気泳動による魔法数分画、その試料の同定、更には吸収・CD・MCD測定を中心的に行い、キラル構造とその電子状態に関する知見を得た。特に、グルタチオンを配位子に使用し、AuナノクラスターにPd原子をドープする2元合金系を検討し、試料の作製を達成したが、このクラスターはコアシェル構造のクラスターを取り、Pd(core)-Au(shell)となっている事が分かった。その紫外可視吸収特性に特徴的な構造が現れないにも拘わらず、CD信号には構造を持った大きなコットン効果が見られた。この原因をMCD測定によって調べた所、隠れた電子遷移の存在が明らかとなった。またAuAg2元系合金型ナノクラスターの作製に取り組み、魔法数分画を行った。その結果、25量体、18量体のクラスターを選択的に取り出す事に成功し、その不斉光学応答に関する知見も得る事ができた。Agを高濃度ドープした時、AuAg18量体のクラスターに限って不斉光学応答は増大化した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、金や銀を中心とする非磁性金属(貴金属)ナノクラスターの電子状態を、不斉光学応答や磁気円二色性信号の測定、及びその解析から詳細に行う事、とりわけ、水溶性キラルチオール配位子で保護されたAuやAg、あるいはヘテロ原子がドープされたナノクラスターを対象に、通常の円二色性(CD)測定や磁気円二色性(MCD)測定を行い、キラリティも含めた電子状態の高精度解析を行った。魔法数分画やCD、MCD応答も感度よく測定され、問題なく研究を進行させる事ができた。更に、サイズが若干大きな、表面プラズモン共鳴を示すAgナノ粒子の作製にも取りかかる事ができ、いくつかの試料に関しては大きな磁気円二色性の検出にも成功した。この信号はまさにマグネトプラズモンに起因するものであり、更に詳細に調べていく予定である。また、当該年度は、幸いにも優秀な修士課程の学生と学部4年生の学生と共に共同で研究を遂行できた事もあり、研究の進捗に遅れはなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度は上述したように、修士課程の学生と学部4年生の学生との共同により効果的に研究を遂行することができた。修士課程の学生は卒業したものの、学部4年生は幸いにして等大学院の修士課程に進学したため、平成28年度も本研究の推進には大きな滞りはないものと予想される。一方で、新しく共同で研究を行う事になった新4年生は学部のみで卒業予定であり、その進展に未知数の部分も存在する。以上の点も鑑み、平成28年度は、まずは当初の予定通り、①様々な配位子(表面保護基)の利用による、表面プラズモン共鳴(SPR)を発現する非磁性金属(貴金属)球形ナノ粒子の化学合成及びサイズ制御、②その金属ナノ粒子の磁気光学(MCD)応答評価(マグネトプラズモン検出、サイクロトロン周波数評価)とそのサイズ依存性の解明、を中心にして研究を遂行する。具体的には、表面を保護する配位子としては、研究代表者が得意とする水溶性チオール系ばかりでなく、配位子の特性(電子吸引や供与性・側鎖配向特性など)が大きく異なる非水溶性のアルカンチオールなども検討する。これらの配位子達を用いて金や銀などのナノ粒子を、サイズを揃えて精密に作製すると共に電子顕微鏡観察や赤外・紫外可視吸収測定をもってその特徴を評価し、また、本丸である所の磁気円二色性を測定・評価し、これらが発現するするマグネトプラズモンの本質に迫りたい。とりわけ、金属の違いによるマグネトプラズモンの発現の違い、サイズ依存性、表面配位子依存性を詳細に検討する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、優秀な学生と共に研究を遂行する事ができたため、研究の進展自体には滞りはなかったが、新たに研究室に配属された学生については、本研究代表者の計画を存分に実行するに充分な学生数を本研究代表者が得る事を認められなかった。従って、そのための費用については多少の余裕が生じた点、また、次年度に予定する電磁波解析アプリケーションの購入について、その製品や価格については非常に広範囲に亘っているため、そのスペックの観点からどの程度の予算が必要か不透明な部分があった点、更に、もし可能ならサンプル作製の効率化に有用な遠心濃縮器などの購入も検討したいと考えた点、がその理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は電磁波解析アプリケーションの購入を行い、金属ナノ粒子、あるいは様々な形状をした金属ナノ構造体の表面プラズモン解析を理論的側面からも検討していく予定である。尚、この様な解析を行うためのソフトウエアには様々なグレードものがあり、その価格も100万円以下から数百万円に至るまで非常に広範囲にまたがっているのが現状である。本研究を遂行するに当たって必要かつ充分なものの検討を含め、予算範囲で購入、その使用を計画する。また、化学合成による試料作製において、充分な精製後、最終的には固体として取り出し、保存する必要がある。そのためには効率的な溶媒除去・乾燥が必須である。試料の絶対量も少ない上、加熱する事ができない事も多い。これを解決するには遠心濃縮器がその効率化に好ましいと考え、可能ならば購入する予定である。
|