研究課題/領域番号 |
15K04666
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
河村 裕一 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80275289)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 中赤外光デバイス / タイプII量子井戸 / InGaAsN / GaAsSb / 分子線結晶成長法 |
研究実績の概要 |
波長3μm以上の中赤外デバイスとして有望なInP基板上のInGaAsN/GaAsSbタイプII量子井戸ダイオードの熱処理効果について検討した。熱処理は550℃で30秒行った。その結果、20KにおけるEL発光波長が2.6μmから3.3μmへ長波長化することを実験的に確認した。原因を調べるため、InGaAsN/GaAsSb多重量子井戸の電気伝導特性から電子の有効質量の熱処理効果を調べた。その結果、550℃による熱処理により電子の有効質量が0.62からo.51へ減少していることを見出した。これによりELピーク波長の長波長化と有効質量の減少が関係していることが予想される。さらにダイオードの電流電圧特性に対する熱処理効果についても検討した。その結果、550℃の熱処理により、暗電流成分が増大することを見出した。この実験結果は熱処理によりダイオード中に欠陥が形成されていることを示唆している。すなわち、ELピーク波長の長波長化と有効質量の減少及び、ダイオード中の欠陥の増大が深く関係していることが予想される。有効質量の減少はInGaAsN層におけるN原子が減少していることを意味していることから、熱処理により、N原子がGaAsSb層へ拡散し、拡散したN原子が欠陥準位を形成していると考えることが出来る。このGaAsSb層中の欠陥準位がELピーク波長の長波長化を引き起こしている可能性が高い。今後さらに熱処理条件を変えて実験を行い、メカニズムを明らかにして行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
InP基板をベースとした波長3μm帯の中赤外デバイスを実現することが目的であるが、アニールにより波長3.3μmの電流注入発光を観測できたことは大きな進展であると考えられる。この材料系は我々が初めて提案した中赤外の材料系であり、この材料系において波長3.3μmを実現出来た事の意義は大きいと考える。またアニールにより有効質量が減少するという効果は初めて観測されたものであり、物性的観点からも興味深い結果が得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はアニール条件を変え、タイプII量子井戸ダイオードの発光波長の長波長化のメカニズムを解明するとともに、さらに長波長で高品質の結晶成長条件と構造を見出して行く。またInP基板上のGaSb系材料の検討も進めて行く。特にGaSb層の成長条件の最適化を進めて行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた光学的特製を評価するための実験装置の機種が確定出来なかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度に予定していた実験装置を購入し、タイプII量子井戸ダイオードの光学的特性の評価を行う予定である。
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