ロボットの姿勢をどの程度連続的に変えることができるかという問題は、工学での運動学の分野で古くから研究されてきた。1990年代に入り、ロボット運動の配置空間を幾何学の視点から精密に研究しようという試みが始まった。特に有名なロボットとして等辺多角形のモジュライ空間が挙げられる。これは、一つの棒のコピーを複数本用意し、ユークリッド空間の中で繋ぎ合わせることにより得られる形全体のなす空間である。注意したいのは、上記の多角形はユークリッド空間という平坦な空間内での多角形ということである。2018年度および2019年度では、球面における等辺多角形のモジュライ空間を研究した。つまり、多角形の頂点は球面上にとり、2点間の距離は大円距離にとる。球面は曲がった空間なので、モジュライ空間の研究はユークリッド空間に比べて遙かに難しい。今年度は次の2つの研究を行った。 1. 2019年度は球面における等辺多角形のモジュライ空間のオイラー標数を決定した。そのモジュライ空間には位数2の巡回群が作用する。今年度は、モジュライ空間の軌道空間のオイラー標数を決定した。そのためにモース理論を活用した計算を行う必要があり、今年度購入した計算機を駆使した。 2. 近年、タンパク質など化学の分野との関連において、ユークリッド空間内の等辺等角多角形のモジュライ空間が注目され始めている。しかし、このモジュライ空間の性質は等角の角度に依存する。ぞれゆえ、モジュライ空間の性質を調べるための計算はかなり複雑になる。今年度はモジュライ空間が空集合でないような、角度に関する条件を完全に決定した。特に最大の角度は、平面内の等辺多角形が満たす角度であることが解明された。
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