研究課題/領域番号 |
15K05155
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小田 研 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70204211)
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研究分担者 |
黒澤 徹 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10615420)
吉田 紘行 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30566758)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / 銅酸化物 / 強相関電子系 / 不純物効果 / 準粒子束縛状態 |
研究実績の概要 |
本研究では、銅酸化物高温超伝導体Bi2212のCuサイトに少量の磁性不純物Niを添加した系で走査トンネル顕微鏡(STM)によるトンネル分光(STS)と角度分解光電子分光(ARPES)を行い、その電子状態を調べることにより、高温超伝導に対する異常な不純物効果や擬ギャップ・電荷秩序の起源に関する知見を得る。今年度は、初期原料におけるNi濃度を系統的に変えてBi2212単結晶試料を作製し、これらの試料でSTM/STS実験を行い、以下のような成果を得た。 1.STM/STSによるNi周囲の準粒子束縛状態の観測から、Cu-O面内に取込まれるNi不純物の量が正確に見積もられた。この結果から、実際のNi濃度は初期原料における値の約50%程度であることが明らかとなった。また、超伝導転移温度TcのNi濃度依存性を正確に決定することができた。 2.低Ni濃度(~0.5%)における準粒子束縛状態は先行研究の結果と合致するものであり、電子的なものはNiサイトと第2近接Cuサイト方向(Cu-O結合方向から45°傾いた方向)に広がるのに対し、ホール的なものは最近接方向に広がることが確認された。一方、高Ni濃度(~2.2%)における束縛状態は、電子的な準粒子に関してのみ存在し、Niサイト上にほぼ局在するなど、その特徴は低濃度とは大きく異なることが明らかとなった。 3.STS測定から、超伝導ギャップの大きさはNi濃度に依らずほぼ一定であるのに対し、準粒子の寿命は、Ni濃度の増加と共に散乱が強まると、急激に短くなることが明らかとなった。このことは、準粒子束縛状態がNi濃度によって大きく異なること(上記2)の起源を解明するための手がかりになると考えている。 以上で記したように、今年度の研究では、Ni不純物原子の周囲における準粒子束縛状態および、高温超伝導に対するNi不純物効果を理解する上で興味深く重要な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で記したように、高温超伝導に対する異常な不純物効果を理解する上で重要と考えられる成果が得られるなど、本研究は順調に進捗している。したがって、本研究課題は、計画年度内に目的を達成できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はNi不純物を添加したBi2212におけるSTM/STS実験を中心に行ってきた。今後は、これまでのSTM/STS実験を継続させると共に、擬ギャップや反強磁性共鳴モードを反映するスペクトル構造に対するNi不純物効果についても詳しく調べる。また、今年度は予備的なARPES実験を積み重ねてきたので、これらの蓄積を基に来年度以降は、STM/STS実験で示されたNi濃度の増加に伴う準粒子束縛状態の変化がフェルミ面上のどこの領域で起っているかの問題を解明することを目的としてARPES実験を行う。 ~2%を超えるNi濃度のBi2212単結晶試料の作製には新たな工夫が必要となるが、来年度以降は3%程度のNiを添加した試料の作製法についても検討する。また、Ni濃度~3%のBi2212におけるTcは不純物を添加していない試料の50%程度にまで低下すると期待されるが、このような高いNi濃度のBi2212でもSTM/STSおよびARPES実験を行い、Bi2212における準粒子束縛状態、エネルギー・ギャップ、反強磁性共鳴モード等の性質に対するNi不純物効果の全容を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度後半にARPES装置の光源の一部が故障し、光の強度が弱まるといったトラブルが発生した。当初は、この修理を年度内に行い、当該科研費の一部を修理費用として使用する予定でいた。しかし、業者のスケデュール上の理由で次年度に持ち越しとなったため、次年度使用額が発生した。修理費用は30万円程度と見積もられているが、故障の原因が完全には明らかとなっていないため、実際の請求額がはっきりしない。そこで、45万円程度を次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越金のほとんどはARPES光源の修理費として使用する予定である。
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