研究課題/領域番号 |
15K06250
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
出村 嘉史 岐阜大学, 工学部, 准教授 (90378810)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水系基盤 / 近代水利 / 支派川改修事業 / 中小河川改良事業 / 用排水幹線改良事業 / 土地改良 |
研究実績の概要 |
大正末期から昭和初期(1920年代~1935年あたり)に実施された一連の支派川改修の実態に関する情報を整理し、事象を解明した。対象領域は、長良川と木曽川の間にあたる岐阜市および稲葉郡と羽島郡のエリア(呼び名が定まらないので、岐稲エリアと呼ぶことにした)である。事実解明に必要な資料は十分に揃えられた。中でも大野勇が編集した数々の水利組合誌は、当事者ができる限りの情報を遺そうと努力した結果であり、当事者の意図を知るために最も信頼に値する資料であることがわかった。水害予防組合および普通水利組合がそれまでに各支派川の部分毎に設立されており、いわゆる輪中的で排他的な慣行水利の制度に囚われていた状態を確認し、また、その状態から脱して用排水幹線改良事業や支派川改修事業など大規模で地域的な連携によって包括的水利システムを構築できたことには、農林省および内務省の技師率いる技術者集団の継続的な努力と、岐阜縣内務部の耕地課および河川課の仕事、そして各組合を代表する地主層の懸命な動きがあった。なかでも岐阜県技師の試行錯誤的な実践は注目に値する。これら多様な立場の人々が、現場において連携することに非常に心を砕いている様子が把握できた。 農林省と内務省の大正末期から昭和初期の権限争いは、岐稲エリアにおける一連の事業においては、これらの分掌がどちらにとっても有用なシステムを構築しなければならない場面で、結果としてはよい方向へ働いたと考えられる。同時に調査をしてきた砂防を巡る両省の権限争いについては、例えば岐阜県と愛知県のように、現場である県の対応によって展開が異なっていることが把握された。 以上の研究の過程において、京都大学・東京工業大学と合同研究会を開催し、景観・デザイン研究発表会や土木学会中部支部研究発表会などにおいて討議を行うなど議論を重ね、現在ここまでの研究成果を論文にまとめて投稿したところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
取り組んできた水利システム形成について、目的通りの成果を得てきた。これを現在論文として、一部投稿しているが、まだ全てのアウトプットを公表できていない。しかし、現在鋭意取り組んでいるこの作業はすぐに終える見通しができているので、進展は順調であると言える。 また、今年度に焦点を当てる岐阜市市街地発展と水利システムの関連の解明において、同時代的な都市形成の状況把握も同時に進めることがある程度できている。
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今後の研究の推進方策 |
水利システムの形成について、現象の把握がほぼできたので、これを基盤に隣接する都市部がいかに自らのシステムづくりへ関連付けていったのかについて、今年度は焦点を当てていきたい。そのために、都市部を通り抜ける用水幹線について、近々、土木計画学研究発表会で発表をするための準備を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は研究対象である事象において背景となる国家的な制度の展開へ焦点を当てた調査作業に多くの時間を使った。そのために、一旦収集した史料の地道な分析と考察が続いたため、予定していたほどの対外的な議論や公表に多くのエフォートは割かなかった。年度末は論文発表へ向けて作業をするため、無理に経費を費やすことをせず、次年度にその展開を譲ることにした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、当初予定していたソーシャルキャピタルの国際ワークショップ(開催地:トンガ共和国)が開催されるため、費用がかさむことが予想される。今年度に使用しなかった額を有効に活用して、研究の着想自体が妥当であったかどうかの建設的な議論ができることを期待している。
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