研究課題/領域番号 |
15K06721
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
浜 千尋 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (50238052)
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研究分担者 |
中山 実 東邦大学, 理学部, 博士研究員 (40449236)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シナプス / シナプス間隙 / マトリックス / Hig / Hasp / ショウジョウバエ / 突然変異 / 免疫沈降 |
研究実績の概要 |
本研究では、シナプス間隙マトリックスタンパク質であるHigと新たに同定されたHaspの解析を基礎に、いかにシナプス間隙マトリックスが構築され、またマトリックスとシナプス末端の相互作用によりどのようにシナプスの分化が制御されるのか、その機構を分子レベルで明らかにすることを研究の目的とした。 H28年度の研究実施計画の第一は、Haspのシナプス間隙局在化機構の解析であり、第二はHigと熱ストレスとの関連性の解析であった。第一のHasp局在化機構の解析については、RNAiスクリーニングによりHaspの局在に変化を与えるタンパク質の同定を試みてきた。その結果、膜タンパク質および細胞質タンパク質を含め、数種の候補タンパク質の発現をノックダウンすることによりHaspの局在量が変化することが判明している。さらに、次年度の計画を前倒しして進めてきたプロジェクト、「Haspと相互作用するタンパク質の免疫沈降と質量分析による同定」においては、2種のタンパク質が候補分子として同定され、その内の1種について遺伝子変異を作成したところ、実際にHaspタンパク質のシナプスにおける局在量が顕著に減少することが確認できた。すなわち、われわれはHasp局在化タンパク質を同定することに成功したことになる。しかし、この遺伝子変異で完全にHaspが消失するわけではないため、他にもHasp局在化タンパク質が存在することが予想される。また、このタンパク質がシナプス形成初期からHaspの局在に関わるのか、それとも成熟したシナプスでHaspの維持に必要なのか今後確かめる必要がある。 第二のHigと熱ストレスとの関連性については、第一の計画内容と同様に熱ストレスとの関連が示されているジストロフィンやジストログリカンの発現量をRNAiにより減少させてHigの局在に対する影響を調べたが、有意な差を検出することはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中枢のコリン作動性シナプスの分化機構を、シナプス間隙に存在するマトリックスの構築機構、およびマトリックスとシナプス末端との相互作用により明らかにしようとしており、中枢シナプスの分化機構に質的に新しい知見を与えようとする試みが本研究の主旨である。 その研究の流れにおいて、われわれは今までにHig、Hasp、Hasp局在化因子を分子遺伝学的および生化学的に同定し、さらにHigがシナプス後部末端膜上のアセチルコリン受容体(AChR)の特定のサブユニットと相互作用することを発見しており、概ね順調に研究は進捗している。AChRのサブユニットであるDa5は、他のサブユニットと性質が異なり、Higと相互作用するとともに他のサブユニットの局在にも大きな作用をもたらす、という証拠が集まりつつある。このように、AChRの特定のサブユニットが受容体の局在において重要な役割を示すという知見は前例がない可能性があり、神経科学における新たなトピックとなり得る。 さらに、Hasp局在化因子だけでなく、Higと相互作用する候補タンパク質についても解析を進めており、当初計画になかった新たな解析項目にも研究が展開している。 一方で、Higと熱ストレスとの関係性については、hig変異体が熱に弱く死に至る、という以上の知見は得られておらず、計画の見直しが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
Hasp局在化因子の同定については、現在の研究の流れを止めることなく推進していく。その内、第一のアプローチであるRNAiスクリーニングについては、シナプス前部、後部の両末端での発現抑制を着実に進めながらHaspの局在量の変化を定量化していく。その局在量の変化に再現性のあるものに着目して候補をさらに絞り込んでいく。 第二のアプローチである免疫沈降と質量分析により、Haspと複合体を形成すると考えられるシナプス分子の候補を2種同定した。その内1種の変異によりHaspの局材量が減少することを確認している。今後、この分子について抗体を作成してコリン作動性シナプスにおける局在を確認するとともに、超解像顕微鏡を用いてシナプス内における正確な局在を明らかにする。さらに、Hasp変異体で局在に変化が認められるか解析する。 免疫沈降で同定された2つ目の分子はシナプスの形成に関わることが知られている膜タンパク質であり、その変異によるHaspの局在、およびHasp変異体におけるその分子の局在変化を解析していく。さらに、一連の研究の中で同定されたすべての分子の局在パターンを超解像顕微鏡を用いて解析し、シナプス間隙を中心としたシナプスの微細構造を分子レベルで解明し、新しいシナプス像の構築を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
形質転換体作成を外部に委託したが、納期が年度内に間に合わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
形質転換体作成の外部依託費に組み入れて使用する予定である。
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