研究課題/領域番号 |
15K06818
|
研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
松岡 邦枝 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 主席研究員 (40291158)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 難聴 / 疾患モデルマウス / 内耳外有毛細胞 / CRISPR/Cas9システム |
研究実績の概要 |
本研究は、聞こえの調節に必須な役割を果たしている内耳外有毛細胞(OHC)に特異的に発現する遺伝子の機能解析を行うことにより、OHCの形成機構および聴覚機能のメカニズムを解明することを目的としている。昨年度までに、OHCを任意の時期に破壊することのできるOHC-TRECKマウスを用いてマイクロアレイおよびRNA-seqによる内耳蝸牛における発現遺伝子の網羅的比較を行い、Oncomodulin(Ocm)およびPpp1r17をOHC特異的発現遺伝子として同定し、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集によりKOマウスをC57BL/6Jを背景としてそれぞれ樹立した。本年度は、各KOマウスの詳細な表現型解析を行った。さらに、OHCの機能を特徴付ける遺伝子を探索し、発現様式を調べた。 走査型電子顕微鏡による観察の結果、正常マウスではOHC上に存在する3列の感覚毛が階段状のV字型構造を示すが、Ocm-KOマウスでは3ヶ月齢で1列目の感覚毛の短縮が認められ、5ヶ月齢では1~3列の感覚毛で短毛化が認められるようになり、特に1列目においては短毛化に加えて感覚毛の脱落が顕著である等、感覚毛の崩壊の過程が明らかになった。これらのことから、Ocm-KOマウスで認められる早発性進行性難聴は感覚毛の崩壊に起因することが強く示唆された。Ppp1r17-KOマウスは、ABR法により経時的に聴力測定した結果、3ヶ月齢で16 kHz以上の高周波の音刺激に対して有意に聴力閾値の上昇が認められ、聴覚機能の維持に関わっていることが推定された。また、RNA-seq解析でOHC特異的に発現することが示唆された遺伝子群について、特異抗体を用いた免疫組織染色の結果、生後発達期でPNNが、成熟後ではGAT3、VGAT、CHRNA10のOHCにおける発現が認められ、OHCの形成や機能の維持に重要であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
各KOマウスの表現型解析は順調に進展している。一方、Ocm-KOマウスの背景であるC57BL/6JマウスはCadherin23遺伝子(Cdh23)に加齢性難聴に関与するハイポモルフ変異アレル(ahl変異:c.753A)をもつが、ahl変異が修復されたC57BL/6J-Cdh23c.753Gマウスと交配して作出したOcm-KO(Cdh23c.753A/G)マウスで聴覚障害の発症が顕著に遅延することを新たに見出した。CDH23は感覚毛の間を繋ぐチップリンクを構成するタンパク質であることから、Ocm-KOマウスにおける感覚毛の崩壊にahl変異が寄与していることが推定された。さらに、Ocm-KOマウスではOHCに認められるシナプス構造の異常は生後3~6週に生じることを明らかにした。 また、OHCの形成に関わる可能性のある遺伝子であるPnnおよびOHCの機能を担うと推定される遺伝子Gat3、Vgat、Chrna10がOHCにおいてそれぞれ強い発現が認められることが確認できた。
|
今後の研究の推進方策 |
Ocm-KOマウスおよびPpp1r17-KOの表現型解析をさらに進める。特に、透過型電子顕微鏡(TEM)による解析を行い、各KOマウスのOHCの微細構造を明らかにする。一方、アミノグリコシド系抗生物質、フロセミド等の利尿剤、あるいはシスプラチン等の抗癌剤の投与により聴覚障害が誘導されることが知られており、その作用機序には活性酸素の関与が推定されている。Ocm-KOマウスおよびPpp1r17-KOマウスにおけるアミノグリコシド系抗生物質等薬剤に対する感受性を明らかにする。また、新たに見出した数種のOHC特異的発現遺伝子の発現様式をさらに検証し、OHCにおいて重要な機能をもつことが期待される遺伝子については、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集によりKOマウスを作製する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
OHC特異的に発現するマーカータンパク質を認識する抗体の作製が必要と考えられ、委託のための費用を計上していた。抗体作製は場合により、更なる追加免疫や抗原ペプチドの変更が必要となる、あるいは免疫動物の死亡により再度免疫を行う等の事象が生じることがあるため、その対策も含めた額を想定していたが、目的の抗体の販売が開始されたため、委託による抗体作製が不要となり、本年度の申請額と使用額に差違が生じることとなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、本研究課題で新しく見出したOHC特異的発現遺伝子についてCRISPR/Cas9システムにより遺伝子改変マウスを作製するので、これに使用する。また、表現型解析に必要な抗体の購入に使用する。
|