研究課題/領域番号 |
15K06900
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三好 浩之 慶應義塾大学, 医学部, 特任准教授 (70219830)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞老化 / リプログラミング |
研究実績の概要 |
細胞老化は、DNA損傷、酸化ストレス、癌遺伝子発現などのストレスによって誘導され、不可逆的に細胞分裂が停止する現象であるが、その分子機構はまだ不明な点が多い。本研究では、分裂停止した老化細胞からiPS細胞を樹立し、元の老化細胞や老化前の細胞由来のiPS細胞との間で、遺伝子発現レベル、エピジェネティックな変化、細胞周期や細胞機能などの性状を比較解析することにより、細胞老化の分子メカニズム解明の新たな糸口を見いだすことを目的としている。 平成27年度は、分裂能を完全に失ったヒト老化線維芽細胞からiPS細胞を樹立することを試みた。予備的実験では、老化細胞にOCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYCの4因子のみあるいは4因子とp53 shRNAをレンチウイルスベクターで導入してもiPS細胞は樹立できないことがわかっていた。そこでまず、染色体に組み込まれないレンチウイルスベクターによってSV40LTを一過性に発現させることにより、p53経路およびp16/Rb経路を抑制し、再び細胞増殖を開始させた後、4因子に加えリプログラミングを促進すると考えられる遺伝子LIN28の導入とDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(RG108)およびヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(BIX01294)の添加により、非常に低い頻度(0.00001%)ではあるがiPS細胞を樹立することができた。iPS細胞の樹立は、未分化マーカー(SSEA3、SSEA4、TRA-1-60、TRA-1-81)の発現を免疫染色法により確認し、多能性の確認は免疫不全マウスへの移植によるテラトーマ形成(三胚葉系への分化能力)により行った。老化細胞由来iPS細胞の増殖や形態は、50回以上継代を重ねても、コントロールの若い細胞由来iPS細胞と変わらないことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト新生児線維芽細胞(NB1RGB)は、継代培養を繰り返すと集団倍加数(PDL)が75~79で完全に分裂能を失い老化することを、老化関連βガラクトシダーゼ染色陽性とBrdUの取り込み陰性により確認している。予備的実験では、PDL75以上のNB1RGB細胞にOCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYCの4因子のみあるいは4因子とp53 shRNAをレンチウイルスベクターで導入してもiPS細胞は樹立できないことがわかっており、細胞増殖を開始する段階が律速であることが示唆された。そこでまず、染色体に組み込まれないレンチウイルスベクターによってSV40LTを一過性に発現させ、p53経路およびp16Ink4a/Rb経路を抑制し、再び細胞増殖を開始させた後、4因子を導入することを試みた。さらに、リプログラミングを促進すると考えられる遺伝子(LIN28、hTERT、Glis1など)の導入と化学化合物(Wnt-GSK3βシグナル経路阻害剤、TGFβシグナル経路阻害剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチル化阻害剤など)の添加の組み合わせも検討した。その結果、SV40LTの一過性発現と4因子およびLIN28の導入、さらにDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(RG108)とヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(BIX01294)の添加により、非常に低い頻度(0.00001%)ではあるがiPS細胞を樹立することができた。iPS細胞の樹立は、未分化マーカー(SSEA3、SSEA4、TRA-1-60、TRA-1-81)の発現を免疫染色法により確認し、多能性の確認は免疫不全マウスへの移植によるテラトーマ形成(三胚葉系への分化能力)により行った。老化細胞由来iPS細胞の増殖や形態は、50回以上継代を重ねても、コントロールの若い細胞由来iPS細胞と変わらないことが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
他のヒト老化線維芽細胞(TIG1)からも同様にiPS細胞が樹立できるかどうかを検討する。また、樹立を促進すると考えられるその他の方法の組み合わせを検討し、iPS細胞の樹立効率の向上を試みる。樹立した老化細胞由来iPS細胞については、以下の解析を行う。 <分化誘導後の増殖能の解析>老化細胞由来iPS細胞および若い細胞由来iPS細胞から線維芽細胞を分化誘導し、増殖能と分裂寿命を比較する。 <網羅的遺伝子発現解析>分裂停止した老化線維芽細胞および樹立したiPS細胞についてマイクロアレイ解析を行い、遺伝子発現プロファイルを老化前の細胞および老化前の細胞から樹立したiPS細胞との間で比較する。また次世代シーケンエンサーを使用して、RNA-SeqおよびCAGE法により遺伝子発現をさらにゲノムワイドに調べ、比較解析する。 <エピゲノム解析>老化前後の線維芽細胞およびそれらの細胞から樹立したiPS細胞のゲノムDNAを調製し、イルミナ社のHumanMethylation27 BeadChipを使用して、ゲノム全領域で27,578のCpGサイトのDNAメチル化解析を行い比較する。ゲノムワイドのヒストン修飾解析は、特にH3K4me3、H3K9me3、H3K27me3の抗体によるクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-Seq)を行い、各細胞間で比較する。 遺伝子発現とエピゲノムの解析結果はゲノム上にマッピングを行い、ヒストン修飾状態およびDNAメチル化状態と遺伝子発現の関係をゲノムワイドに掌握し、各細胞間で比較する。老化細胞由来iPS細胞に特異的な遺伝子の発現が特定できた場合には、その遺伝子の老化過程における機能についても解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
老化細胞からのiPS細胞の樹立が予想以上に難航し、iPS細胞の解析のために予定していた実験の物品費(消耗品)の一部を翌年度に使用することになったため。また、研究成果を学会で発表するため旅費を計上したが、発表に至らなかったため旅費を使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費(消耗品)は、平成27年度に予定していたiPS細胞の解析に加えて遺伝子発現やエピゲノム解析におもに使用する。平成28年度は、分子生物学会等の学会に参加し発表するため、旅費を使用する予定である。
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