研究課題
細胞老化は、DNA損傷、酸化ストレス、がん遺伝子発現などのストレスによって誘導され、不可逆的に細胞分裂が停止する現象であるが、その分子機構はまだ不明な点が多い。本研究では、分裂停止した老化細胞からiPS細胞を樹立し、老化前の細胞由来iPS細胞や元の老化細胞との間で、遺伝子発現レベル、エピジェネティックな変化、細胞周期や細胞機能などの性状を比較解析することにより、細胞老化の分子メカニズム解明の新たな糸口を見いだすことを目的とした。分裂能を完全に失い老化した正常ヒト線維芽細胞から、レンチウイルスベクターを用いてリプログラミング因子(OCT3/4, SOX2, KLF4, c-MYC, LIN28)に加えSV40LTを一過性に発現させ、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤とヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤を添加することにより、極めて低い頻度(0.00001%)ではあるがiPS細胞を樹立することができた。iPS細胞樹立の確認は、免疫染色法による未分化マーカー(SSEA3、SSEA4、TRA-1-60、TRA-1-81)の発現および免疫不全マウスへの移植によるテラトーマ形成能により行った。老化細胞由来iPS細胞の増殖や形態は、50回以上継代を重ねても、老化前の細胞由来iPS細胞と変わらず、網羅的遺伝子発現、ゲノムワイドのDNAメチル化およびヒストン修飾の比較解析においても差はほとんど見られなかった。また、iPS細胞から線維芽細胞へ分化誘導し、継代培養後の分裂寿命(細胞老化)についても差は見られなかった。これらのことから、エピジェネティックな変化によって細胞は老化するが、リプログラミングによって分裂停止した老化細胞は若返ることができると考えられる。しかしながら、iPS細胞の樹立効率が極めて低かったことから、樹立できたiPS細胞はまだ完全に老化して分裂停止していなかった細胞に由来する可能性は否定できない。
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