研究課題/領域番号 |
15K06990
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樋口 麻衣子 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (30420235)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Akt / PI3K / 微小管 / 細胞極性 / 細胞運動 |
研究実績の概要 |
繊維芽細胞が正しい方向に遊走するためには、細胞外の走化性因子の濃度勾配に応じた前後の極性形成とそれに引き続く細胞極性の維持が重要である。繊維芽細胞の極性維持には細胞前方における微小管の選択的な安定化が重要な役割を果たすと考えられているが、いかなるメカニズムで前方の微小管が安定化されるのかはほとんど明らかになっていない。本研究では、PI3K-Akt1経路が微小管の安定化を介して細胞の前後極性の維持に貢献する可能性について検証を行うことを目的としている。我々はこれまでに、Akt1が微小管を安定化することにより細胞極性の維持に貢献することを明らかにしており、現在はAkt1による微小管安定化メカニズムの詳細について検討を行っている。Akt1ノックダウン細胞において微小管沈降アッセイ、あるいは安定化微小管の指標である脱チロシン化チューブリンの量を調べたところ、Akt1をノックダウンしてもバルクの微小管安定性には顕著な差は見られない、という予備的な結果を得ており、Akt1による微小管安定化は細胞運動方向先端部で局所的に起きている可能性が高いと考えている。そこで、Akt1をノックダウした細胞において、細胞前方、後方の微小管動態がどのように変化するのか検討したいと考えている。現在、微小管の動的不安定性の4つのパラメーター(growth rate、shrinkage rate、catastrophe frequency、rescue frequency)を計測するため、微小管可視化プローブ(EMTB-GFP)発現細胞を超解像レベルでライブイメージングする系を立ち上げているところである。今後は、微小管の安定化促進におけるAkt1の作用点について明らかにするとともに、微小管の安定化におけるAkt1の十分性について検討するため、Akt1を人為的に活性化するシステムを立ち上げる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Akt1による微小管安定化メカニズムの解析については、おおむね順調に進んでいる。しかし、微小管の安定化におけるAkt1の十分性の検討については以下の理由で当初の予定より遅れている。 本研究では、微小管の安定化におけるAkt1の十分性について検討するため、Akt1を人為的に活性化するシステムを用いて検討を行う計画であった。当初、薬剤(rapamycin)依存的なFKBPとFRBの二量体化を利用してある分子を膜移行させるシステムを応用して、Akt1を強制的に膜移行させることでその活性化を人為的に操作することを考えていた。実際にこのシステムを導入し、我々の系で動くことも確かめられた。しかし、この系をさらに応用し、細胞の局所でAkt1を強制的に活性化するシステムを立ち上げようとしたが、このシステムでは層流チャンバーを用いるため、薬剤刺激を入れる場所を任意で選択することが難しく、また刺激のON/OFFの制御を速やかに行うことができない、という問題があることが判明した。そこで当初の戦略を変更し、CRY2とCIB1の二量体化を青色光の照射依存的に引き起こす手法を用いて、Aktを局所的に活性化することを目指すこととした。前者のシステムの立ち上げに時間を費やした分、当初の計画より遅れてしまったが、現在は後者のシステムが我々の系で動くことが確かめられたため、今後はこの系を用いて微小管安定化におけるAkt1の十分性についての検討を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
微小管可視化プローブ(EMTB-GFP)発現細胞を超解像レベルでライブイメージングすることで、微小管の安定化促進におけるAkt1の作用点について明らかにする。また、CRY2とCIB1の二量体化を青色光の照射依存的に引き起こす手法を用いて、Akt1を局所的に活性化することで、微小管の安定化におけるAkt1の十分性について検討する。Akt1が微小管安定化を促進するメカニズムについて明らかにするため、Akt1と微小管プラス端結合タンパク質の関係について検討を行う。Akt1の上流キナーゼPDK1のノックアウト細胞においては、さまざまな微小管結合タンパク質の微小管への結合が変化する、という予備的な結果を得ているため、Akt1についても同様に検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
Akt1を人為的に活性化するシステムについて、当初、薬剤(rapamycin)依存的なFKBPとFRBの二量体化を利用してある分子を膜移行させるシステムを応用して、Akt1を強制的に膜移行させることでその活性化を人為的に操作することを考えていた。しかしこの系では、細胞の局所で望みのタイミングでAkt1を強制的に活性化することが難しいという問題が生じた。そこで当初の戦略を変更しし、CRY2とCIB1の二量体化を青色光の照射依存的に引き起こす手法を用いて、Akt1を局所的に活性化することを目指すこととした。前者のシステムの立ち上げに時間を費やした分、研究が当初の計画通りに進まなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
現在は、光依存的にAkt1を局所的に活性化するシステムが我々の系で動くことが確かめられたため、今後はこの系を用いて微小管安定化におけるAkt1の十分性についての検討を進める予定である。また、Akt1が微小管安定化を制御するメカニズムについての解析も行う予定である。次年度使用額については、以上の実験を遂行するのに必要な消耗品、設備、備品の購入費用として使用する予定である。
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