真核生物の鞭毛内では、モータ活性の異なる複数種のダイニンが配列しています。本研究の目的は、活性の高いダイニンと低いダ イニンを配列した時にどのように協調して微小管と相互作用するのかを解明し、活性の異なるダイニンの配列が鞭毛運動にいかに有利に働くのかをつきとめることです。 本年度は、各種鞭毛ダイニンを配列し、配列することによる運動性の変化を観察することを 目標に課題に取り組みました。まず、多くの内腕ダイニンが持つ軽鎖サブユニット”アクチン”にHAタグを付加したクラミドモナス株からダイニン の精製を行い、運動性の観察を行いました。HA抗体上に固定したダイニン上を微小管が運動する様子の観察に成功しました。しかし、十分な量のダイニンを得ることが出来なかった為、ダイニンを配列する実験は実施できませんでした。そこで、本年度はへテロトリマーの外腕ダイニンを配列し、外腕ダイニンが協同的に働く様子を観察する実験系の構築を行いました。足場には、鞭毛軸糸断片を核として重合した微小管を使用しました。これにより2-9本の方向性の揃った微小管の束を作成することに成功しました。粗精製外腕ダイニンの添加により、微小管束は硬くなりました。負染色電子顕微鏡法で観察したところ、微小管上に24nm周期でダイニン外腕とサイズ、形状が一致する構造が、配列していました。遠心分離で微小管に結合する成分を共沈させ、電気泳動で確認すると、ATP非存在下では外腕ダイニンと内腕ダイニンfが微小管と共沈しましたが、ATP存在下では外腕ダイニンだけが共沈しました。束化した微小管にATPを加えると、微小管束に屈曲が発生する様子を観察できました。まれに、周期的に屈曲ー微小管束の乖離ー再結合する運動も観察できました。方向性を揃えた微小管束間に外腕ダイニンを橋渡しするように配列、微小管との相互作用を観察する実験系が構築できたと考えています。
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