研究課題
自然免疫はウイルス感染時の生体防御において必須の役割を果たす。その詳細な分子機構を解明することは創薬の新たな分子標的の同定や新たな治療法の開発につながると期待される。我々は、この自然免疫機構の解析を行い、RIOK3などの新規因子を平成27年度までに同定し、その機能を培養細胞を用いた解析により明らかにした。平成28年度は、このRIOK3ノックアウトマウスを作成した。実験では、野生型マウスとRIOK3ノックアウトマウスより胎児由来線維芽細胞、樹状細胞、マクロファージなどを単離し、I型インターフェロンと炎症性サイトカインの産生量の違いなどについて詳細に解明した。DNAをゲノムにもつウイルスに対する自然免疫応答機構については、細胞質内のcGAS分子がウイルス由来DNAを認識し自然免疫応答を誘導することが報告されているが、その制御機構は十分には解明されていない。そこで、cGAS分子の活性を制御する因子を探索するために酵母two-hybrid法による解析を実施したところ、cGAS分子と結合する新たな分子を単離することに成功した。この因子は、ウイルスに対する自然免疫応答への関与については報告が無いが、細菌感染時の炎症性サイトカイン産生に重要な役割を果たすことが知られている分子である。cGASは細菌のゲノムDNAを認識することも知られていたことから、この同定した分子について着目し解析を進めた。また、この分子の生体内での役割を解明するために、ノックアウトマウスを入手し、マウス個体でのウイルス感染実験についても現在実施している。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度に予定していたDDX60分子のノックアウトマウスを用いた解析については、既に完了しており、その成果をCell Report誌に報告した(Oshiumi H et al Cell Reports 11: 1193-1207, 2015)。平成28年度は、RIOK3のノックアウトマウスの作成とその解析を予定していたが、当初予定どおりRIOK3ノックアウトマウスの作成を完了した。また、RIOK3によるMDA5のリン酸化部位の同定についても既に完了しており、その成果はCell Report誌に報告した(Takashima K et al Cell Reports 11:192-200, 2015 )。DNAウイルスに対する自然免疫応答に関与するcGAS分子の制御機構については、酵母two-hybrid法によるスクリーニングにより既に候補分子を同定しており、試験管内の解析からcGASの活性を制御することを発見している。また、この候補分子のノックアウトマウスについて既に入手しており、マウス動物個体へのウイルス感染実験についても既に実施している。これらは、当初予定していた計画に従って実験を実施し得られた成果であり、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
研究は当初予定どおり順調に進んでおり、平成29年度も当初計画どおりに実験を実施する。具体的には、H28年度に作成したRIOK3ノックアウトマウスについて、マウス個体への感染実験や、マウスより採取した細胞を用いた試験管内の解析によりRIOK3がウイルス感染時の自然免疫応答と、未感染時の異常な免疫活性化に果たす役割について詳細に明らかにする。特に、RIOK3が標的とするMDA5は、その異常な活性化がI型糖尿病の原因の一つになる可能性が指摘されており、今後、RIOK3がI型糖尿病などの自己免疫疾患にも関与するかどうかについても詳細に検討を行う。また、cGAS分子と結合し、その活性を制御する分子については、入手したノックアウトマウスを用いて感染実験を実施するとともに、cGASの活性を制御する分子機構を詳細に解明する。感染実験においては、DNAウイルスとして単純ヘルペスI型ウイルスなどを用いて実験を実施する。
平成28年4月に生じた熊本地震により壊れた機器類の修理や新たな購入のため数ヶ月実験の実施が遅れているため
研究費の使用目的は消耗品購入のための物品費であり、H29年度中に遅れていた実験を全て実施し、研究費を全て使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 9件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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