研究課題/領域番号 |
15K08565
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
井澤 美苗 慶應義塾大学, 薬学部, 研究員 (10338006)
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研究分担者 |
中島 恵美 慶應義塾大学, 薬学部, 教授 (90115254)
酒谷 薫 日本大学, 工学部, 教授 (90244350)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プラセボ効果 / セロトニントランスポーター遺伝子多型 / placebome解析 / 脳科学的アプローチ / 光トポグラフィー |
研究実績の概要 |
薬物治療の臨床効果は、薬物要因だけではなくその他非薬物要因の影響を受け、一つには脳前頭前野を介するメカニズムが存在するという考えに基づき、臨床研究を進めた。本年度は、カフェインと乳糖(プラセボ)を用いてプラセボ効果について検討した。脳前頭前野の活性はnear-infrared spectroscopy (NIRS) を用いて脳血流量を測定した。セロトニントランスポーター遺伝子多型(5-HTTLPR)のLL型、SS型、SL型を分け、眠気を主観的指標に基づき、その関係性を検討した。海外の報告では、L-アレイを持つものがプラセボ効果を受けやすいとある。しかし、欧米人はLL型は32%を占めるのに対し、日本人は3.2%と人種差がある。日本人で5-HTTLPRとプラセボ効果との関連性の検討は本邦初の試みである。 被験者42例につき、A群21名(1日目カフェイン-3日目プラセボ:カフェイン条件付け群)、B群21名(1日目プラセボ-3日目プラセボ:プラセボ群)、二重盲検にて臨床試験を行った。遺伝子多型については、 SS型52.4 % (n=22)、SL型40.5% (n=17)、LL型7.10 % (n=3)であった。LL型はプラセボ群のみ存在した。眠気度調査では、カフェイン服用群がプラセボ服用群(1日目)において眠気が改善傾向を示した(有意差はない)。NIRSでは、カフェイン服用群の血流量減少傾向を示し、カフェイン脳細動脈収縮作用の薬理効果が観察された。遺伝子多型との関係では、眠気度調査ではLL型が有意に高い改善傾向を示した。NIRSではLL型が前頭前野の46野において有意に血流量が上昇した。LL型はプラセボ服用群であり、顕著に46野(ワーキングメモリー活性度に関連のある場所)が上昇し、プラセボ効果を客観的指標でも捉えることができた。LL型がプラセボ反応を受けやすいことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5-HTTLPRとプラセボ効果の関連性の検討は海外において若干であるが報告がある。しかし欧米人と日本人においては人種差があることから、プラセボ反応の解明のためには、日本人における検討が必要である。LL型が日本人で極端に少ないことから、検出力検討の結果40名以上の被験者を必要とした。LL型は3名存在したが、検討被験者数を増やして再現性を確認する必要があると考察した。しかし、すでに報告されている研究と同様の結果が得られ、研究の目標は概ね達することができた。さらにプラセボ効果は主観的指標(眠気など)の方が、客観的指標(NIRSなど)に比べ、有意に大きく出やすいという先行研究から次のように考察できる。遺伝子群に分けない検討では主観的指標の方にのみプラセボ効果がみられたが、遺伝群に分けた場合、LL群について主観的・客観的両者にプラセボ効果がみられた。研究成果は良好な結果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
プラセボ効果を引き出す誘因に薬剤の具体的な説明の介入(カウンセリング・認知療法)があり、薬剤の効果を最大限に引き出す薬物療法の重要な要因である。脳科学的アプローチから効果的なカウンセリング方法を見出し、薬物療法の臨床応用へと繋がる研究に進めていきたい。医薬品とその効果に対応するカウンセリングを介入し、その変動を主観的(自覚症状チェック)、客観的(唾液アミラーゼ検査、NIRSなど)で評価する。また先行研究においてカウンセリングで引き起こされる効果に個人差の大きいことがわかった。個別治療療法を実現するのに遺伝子多型の他に環境の相互作用が重要である。その環境変動要因の一つとしてresilience(ストレス抵抗力)に着目し、カウンセリング効果への影響を検証する。最近の研究では、resilienceを変動させる薬剤の存在が報告され、resilienceの個体差は脳の構造や活性の違いによることが示唆されている。resilienceを知ることで薬物治療を有効・適切に活用することができる。resilienceを高める臨床心理学的アプローチから、カウンセリングによって引き出される心理効果のメカニズムの解析について臨床試験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた学会出張費が少なかったために次年度使用額が生じた。次年度に関しては、引き続き研究を施行し、学会発表も行う予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度も引き続き臨床研究をする。脳科学的アプローチから効果的なカウンセリング方法を見出し、薬物療法の臨床応用へと繋がる研究に進める。これまでは、精油を用いたアロマテラピーで試験を行い、そのカウンセリング効果を検討した。今度は医薬品を用いた試験を行う計画である。
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