研究課題/領域番号 |
15K08689
|
研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
松下 昌之助 筑波技術大学, 保健科学部, 教授 (70359579)
|
研究分担者 |
平松 祐司 筑波大学, 医学医療系, 教授 (30302417)
徳永 千穂 筑波大学, 医学医療系, 講師 (30451701)
坂本 裕昭 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (30611115)
兵藤 一行 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (60201729)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 放射光 / 血管造影 / 肺がん / 早期発見 / ラット / 腫瘍血管 / 微小癌 / 転移性腫瘍 |
研究実績の概要 |
1)HARP受像管を用いて放射光血管造影を行った。・・・C6細胞を接種したラットの放射光肺動脈造影では、肺動脈造影のfirst pass直後から徐々に円形の腫瘤像が出現し、徐々に増強したあと減衰する典型的な放射光腫瘍造影が確認された。これは、前回示された腫瘍血管での造影剤漏洩とその遅延回復機序と同様であると考えられた。この結果に関連してH29年1月に共同通信社から取材を受け、国内地方紙13紙の科学欄に掲載された(例、京都新聞H29年2月7日朝刊「医学者・NHK共同チーム 転移がん超早期発見挑む」)。 2)病態の異なる2種類の肺癌を作成した。・・・ラットglioblastoma腫であるC6細胞と、ラット大腸癌腫RCN9細胞を用いた。HE染色を用いた病理標本では、C6細胞の癌腫は腫瘍血管に富み、RCN9細胞は腺組織由来の癌組織を主体とした腫瘤形成をなしていた。抗VEGF抗体を用いた免疫染色では、C6細胞では、腫瘍血管、腫瘍細胞でVEGF(+)所見が認められた。 3)新しい知見・・・腫瘍内部に腫瘍血管がそれほど多くなく、かつ、VEGF発現がそれほど多くない腫瘍では、腫瘍組織自体のX線吸収像を得るには高濃度分解能が必要である。HARP受像管は、肺動脈造影中に感度とコントラストを変え、従来見いだすことが困難であった腫瘍像を明らかにすることが出来ることを確認した。現在はマニュアル操作であるが、将来的にはAIによる自動感度調節と腫瘍認識アルゴリズムの開発が必要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)には、PF、およびPF-ARの2つの放射光施設がある。HARP受像管を用いたH28年度の血管造影は、6月の2日間PF-ARにて、12月の2日間PF(BL-14C)で施行した。全国の他分野の放射光利用者がこの2施設に集中しており、これ以上の使用期間の確保はできなかった。 PF-ARは視野が広く(2.5×3 cm)、光子密度が高いが空間分解能はやや劣る。PFは電子エネルギーは低いが、視野は狭く(0.5×2.0 cm)、空間分解能は高い。それぞれの特徴を生かして造影を行った。また、PFでの撮影時には、筋弛緩剤と人工呼吸器を用いて、呼吸停止時で撮影を行った。ヒトでは任意に呼吸停止が可能であるが、動物では不可能であるため、上記の処置を行った。その結果、概ね腫瘤陰影が静止し、陰影の時間経過を計測することが容易となった。 腫瘤様陰影の中にはリンパ節が含まれることが、想定されるようになった。リンパ節の病理組織を詳細に検討すると、リンパ節中に腫瘍が境界をもって塊状に存在し、そこから血管がリンパ節に伸びている。腫瘍近傍の血管はすでに内皮細胞が腫瘍細胞に置き換わっており、リンパ球組織の血管も順次腫瘍細胞に置き換わり、細胞間構造も粗になっている。また、VEGF免疫染色では、血管構成細胞およびリンパ節内の細胞にもVEGFの発現がみられるようになっている。このため、リンパ節と腫瘍との鑑別が必要と考えられる。一方、リンパ節は気管支近傍にあり、腫瘍塊は肺血管近傍にあるため、気管支の走行を含めた鑑別も考慮中である。また、転移のないリンパ節の血管は正常であるため、リンパ節転移の鑑別も可能であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
1)カニクイザルの使用について・・・霊長類医科学研究センター(茨城県つくば市)のカニクイザルの使用については、当初研究に用いることを考慮したが、同研究センター外に運び出し禁止であることが最終的に判断されたため、カニクイザルを用いて高エネルギー加速器研究機構放射光施設で、放射光肺動脈造影を行うことが出来ないことになった。 2)実験動物と実験の方向性・・・上記の理由のため実験動物はラットとし、さまざまな条件で放射光肺動脈造影を行い、微小肺転移腫瘍の検出を確認することにした。まず、転移性腫瘍の種類(腫瘍血管形成性に富むglioblastoma vs. 腺組織由来の大腸癌細胞(RCN9細胞))による相違、腫瘍の発育時期による相違、腫瘍の分布状態(腫瘤形成性 vs 肺胞散布性)、腫瘍血管の位置(腫瘍周辺 vs 腫瘍内部)、中心壊死の有無を画像と対比させる。そのためには、それぞれの時期のラットを放射光血管造影の時期に合わせて作成するノウハウを確立させる。また、それぞれの摘出肺の検体を組織標本に対し、免疫染色を多用し、CD34(正常血管内皮細胞)、Ki67(腫瘍細胞)、VEGF(血管漏出性)の発現の程度と放射光血管造影画像を対比させる。また、リンパ節転移の範囲を広域画像から確定できるかどうか検討する。 3)HARP受像管の高濃度分解能のリアルタイム応用 血管が密でない腫瘍に対し、造影中にリアルタイムで感度(輝度)を調整し薄い腫瘍陰影を可視化できるかどうか検討する。病理像と対応させながら、放射光血管造影において微小転移性腫瘍像をマニュアルでなく自動検索ができる道筋をさぐりAI応用への基盤を整える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
カニクイザルを用いた実験が中止になったため、カニクイザルの購入費、維持費、霊長類医科学研究センター使用料、カニクイザル特異的肺腫瘍細胞の入手に係わる費用の支出先がなくなったため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
2種類の腫瘍細胞の画像状の相違を、免疫組織学的に解明するため、ラット実験数を増やし、腫瘍組織、リンパ節組織を数多く検討する。そのため、余剰実験費用は、下記にあてる。 ラット追加購入費、ラット維持費、腫瘍細胞培養費用、組織標本作成費用、人件費、抗体等薬品費用。
|