研究課題/領域番号 |
15K08896
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
冲永 壯治 東北大学, 加齢医学研究所, 准教授 (30302136)
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研究分担者 |
冨田 尚希 東北大学, 大学病院, 助教 (00552796)
古川 勝敏 東北医科薬科大学, 医学部, 教授 (30241631) [辞退]
大類 孝 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (90271923)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 災害公営住宅 / 東日本大震災 / 高齢者 / フレイル / 認知機能 / ヘルスリテラシー / ソーシャル・キャピタル |
研究実績の概要 |
災害公営住宅在住高齢者の包括的機能評価について情報交換を重ねてきた。対象は市役所(高齢介護課、健康増進課)、災害公営住宅に設置された生活援助員(LSA)、地域の自治会、仮設住宅のサポートセンター、気仙沼市医師会等である。最も重要な組織は自治会であり、災害公営住宅の自治会は近接する地域の自治会と連携を取ることになっている。本研究は自治会を活動単位とし、自ら健康管理をするシステム作りを基本としている。自治会の活動状況を調査した結果、健康の維持向上を目的とした活動は少なく、また自治会長未設置または自治会が機能していない災害公営住宅も多かった。これは災害公営住宅ができて間もないことが大きく影響しており、また災害公営住宅の入居者はその地域住民に“新しく移ってきた人々”とみなされていることも自治会活動の妨げになっている。また調査の結果、災害公営住宅の状況は、高齢者が居る世帯は79%であり、高齢者のみの世帯は60%、独居は42%となっていた。以上の状況は、災害公営住宅の健康管理は急務であるものの、実行の困難さが判明した。 そこで現在行っていることは、協力が得られた自治会に「健康管理センター」を置いて運用を手伝う(あくまで運用は自治体が行う)ことである。まず、気仙沼市住民向けに東京都健康長寿センターの協力で考案された「海潮音(みしおね)体操」を定期的(曜日を決めて週2~3回程度)に実施する習慣をつけ、この時に集まった人を対象に、同意のもと、①フレイル:a.アンケート調査(フレイルスコア)、b.測定調査(BMI、握力、歩行速度、下腿周囲径、timed up and go test、②神経心理状態:a.タッチパネルを用いた認知機能評価、b.GDS(高齢者うつスケール)③その他:a.栄養(健診データなど)、b.主観的健康観(VAS、SUBI)、c.介護度、d.処方内容等について情報収集を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
気仙沼市の災害公営住宅が完成するのはH29年5月末との見通しであり、かなりの遅れを強いられた。従って本研究の母体となる自治会が今ようやく災害公営住宅で機能し始めている状況である。研究の遅れの最大原因はそこにある。また災害公営住宅の自治会は隣接地域の自治体に含まれる関係になっており、災害公営住宅在住高齢者のみに手厚くすることは認められない。そのため、災害公営住宅近隣の住民を含めた健康管理が要望されている。そして気仙沼市では計13か所の集合型災害公営住宅が設置され、また自治会長はしばしば高齢で、自身の仕事のかたわらに自治会活動をされている。従って各自治会毎に話し合いを持つことは、多くの時間が必要となるが、この十分な話し合いの上での合意や協力は欠くことはできない。それは、本研究の先行研究でも強く示されたが、地域の中の個人が健康であることは、その地域の社会資本(ソーシャル・キャピタル)が豊かであることが望ましい。そのための自治会との関係つくりは本研究にとって極めて重要である。
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今後の研究の推進方策 |
災害公営住宅には共同施設が設置されており、そこは近隣自治会住民にも解放されている。自治会広報等を通じて共同施設でのイベントが企画されているが、その機を捉え、または自ら企画して、実際に調査を試験的に体験してもらい、調査母集団を拡大させる。特に普段イベントに参加しない入居者に対して、LSAの協力のもとに参加を促し、最終的に入居の高齢者の70%がデータに乗ることを目標とする(仮設住宅の調査では70%超であった)。 前述のごとく、各災害公営住宅にて合意を形成していくことは効率が悪い。気仙沼市役所に実態調査の結果を提供し、連携して高齢者の健康管理を行っていくことを通じて、自治会に理解を求めていく。 第1回の調査がようやく始められる段階にきている。各災害公営住宅からできるだけ多くの参加者を集い、できる限り同時期(2カ月以内)にデータを収集したい。そのための準備を進めている。できるだけ同期させるための機材が必要となり、タッチパネル式の認知機能検査機は複数台必要になる。 調査を通じて、高齢入居者がヘルス・リテラシーをもつことが本研究の最終目標である。自らの健康を自ら把握し、そして問題点を考えて対策を実施する。ただ、高齢者すべてにおいてそれが可能かと言えば否であり、自己管理が可能な高齢者がそうではない高齢者を支えるような、小さな社会ネットワークを醸成させることが成功の是非を決める。日本は世界で最も高齢化が進んでいるが、この超高齢社会をどのように克服するかは未だ模索中である。高齢者が超高齢社会を支えることこそが、その問題解決の切り札と考えている。災害公営住宅在住高齢者をモデルとした信頼、互助、ネットワーク形成を観察し、ソーシャル・キャピタルを評価することが、本件研究の先にある。
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次年度使用額が生じた理由 |
気仙沼市が設置予定の災害公営住宅建築の大幅な遅れが本研究の進行を遅らせた。そのため28年度は主に13区画に分散する災害公営住宅の自治会との関係つくりに費やされた。そのため出費がかなり少なくなっている。自治会長は有職者であることが多く、アポイントメントが取れる日時が限られていることが、多くの時間を費やした原因でもあった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度はようやく健康調査が可能な環境が整い、タッチパネルを用いた認知機能検査、握力、四肢筋量・骨塩等の測定機器を導入(購入ないしレンタル)して測定を行う。またアンケート調査用冊子を作成して、先行研究との比較を行う。災害公営住宅の共同利用施設において、医師、歯科医師、薬剤師、栄養士等を講師とした健康関連イベントを企画し、研究の対象高齢者の増加を図る。平成29年度は、より多くの支出が見込まれる。
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