研究課題/領域番号 |
15K08937
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
曲 寧 東京医科大学, 医学部, 講師 (70527952)
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研究分担者 |
伊藤 正裕 東京医科大学, 医学部, 教授 (00232471)
善本 隆之 東京医科大学, 医学部, 教授 (80202406)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 精巣 / 抗癌剤 / 漢方薬 / 精子形成 / マクロファージ / マウス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は化学療法や放射線療法などの抗癌治療の副作用である精子形成障害に対する漢方薬の改善効果と、その作用機序について明らかにすることである。男性精子形成障害は抗癌剤ブスルファンの副作用のひとつであるが、ブスルファン処置後の男性不妊症に対する有効な薬物治療の報告はほとんど知られていない。平成27年度は牛車腎気丸(TJ107)を選び、ブスルファンによるマウスの精子形成障害に対するTJ107の効果を精巣・精巣上体の組織学的解析により検討した。4週齢C57BL/6j雄マウスにブスルファンを腹腔内投与し、60日後からTJ107を含め飼料(TJ107飼料群)とTJ107を含めない通常の飼料(通常飼料群)を60日間自由摂取させた。ブスルファン処置60日目のマウスの精巣重量は 0.041±0.008g、 精巣上体の精子数は1.575±0.308x105 cellsであった。120日目の通常飼料群のマウスでは、精巣重量(0.017±0.0019g) と精巣上体精子数 (0.22±0.0189x105 cells)が60日目により有意に減少した。一方、120日目のTJ107飼料群では、精巣重量(0.10±0.0062g) と精巣上体精子数 (21.68±1.705x105 cells)はともに有意に増加し、ノーマルマウスのレベルまでに回復した。さらに、10例中10例が自然交配により仔が生まれた。精巣内マクロファージを調べたところ、ブスルファン群では萎縮した精細管の周囲にマクロファージの浸潤が増えましたが、TJ107群では精細管の回復と間質のマクロファージ浸潤の低下が見られました。以上の結果から、ブスルファン投与後の非可逆的なマウス精子形成障害に対して、TJ107は精巣重量・精子数は完全に正常レベルまで回復したことを見出しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
男性精子形成障害は、抗癌治療の副作用の一つである。この精子形成障害に対する治療は、薬剤に頼る以外に選択肢が無く、性腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体・性腺刺激ホルモン・抗エストロゲン剤などのホルモン製剤、カリジノゲナーゼなどの代謝改善剤、ATPやCo-Q10などの酵素剤、 そしてビタミンB12やEなどのビタミン製剤が併用されている。現在、精子形成障害の治療に用いられている漢方製剤は、主に八味地黄丸と補中益気湯であり、それらはテストステロンやホルモン分泌の増加を促進する効能を持つことが知られているが、実際には効果がないという報告もあり不明のままである。今年度の結果により抗癌剤投与後のマウス精子形成障害に対して、牛車腎気丸が有効な治療効果を示すことを見出した。また、精巣内マクロファージの関与が明らかになって、精子形成改善に関与している精巣内免疫環境の変化と精子形成の機構解明に有用と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
牛車腎気丸による改善効果と作用機序について、さらに、液性因子としてホルモンやサイトカインの関与について比較検討する。まず、予想されるホルモンとしてテストステロン、性腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン放出ホルモンなどの血中や精巣での発現をELISAやリアルタイムRT-PCR、免疫組織化学的に解析する。以前の応募者らの検討で、TNF-αやIL-35の精子形成への関与が示唆されたので、TNF-αやIFN-γなどの炎症性サイトカイン発現や、逆にこれらの機能を抑制する抑制性サイトカインIL-10やIL-35の発現についても同様に検討する。もしも、漢方薬投与と非投与群で、これらの分子の中で発現量に差がある分子が見つかれば、次に、その発現を阻害する抗体や阻害剤を用いて、漢方薬の精子形成障害改善効果がキャンセルされるか検討し、その関与を明らかにする。特に、サイトカインに対する抗体の効果がはっきりしない場合は、それらの遺伝子欠損マウスを用いて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
漢方薬の抗癌治療による精子形成障害の改善効果を調べるため、牛車腎気丸を含めた餌(ヒト投薬量を体重換算して1,3,5倍を餌に含有)を60日まで自由摂食させるのを予定していたが、5倍の牛車腎気丸餌で有効な治療効果を得られたので、今年度は5倍牛車腎気丸餌のみを用いて実験した。また、漢方治療により形成されたマウス精子の妊性を調べるために、顕微授精を行う予定ですが、5倍牛車腎気丸餌投与群マウス10例中10例が自然交配により仔が生まれ。そのため、顕微授精用の精子採取・精子卵子の培養やマニピュレータなどの器具に使用予定の金額が抑えられたことも理由に挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、漢方薬の抗癌治療による精子形成障害に対する、ヒト投薬量を体重換算して1倍・3倍の牛車腎気丸餌による改善効果についても調べるため、未使用額はその経費に充てることとしたい。研究経費として平成28年度は総額1890千円の研究経費を計上した。1倍・3倍牛車腎気丸餌と5倍牛車腎気丸餌の精子形成改善について比較検討するため、実験動物のためのマウス代(食餌含)450千円として使用予定である。また、1倍・3倍牛車腎気丸餌投与群マウスの妊性を調べるため、自然交配と顕微授精を行う予定しているので、培養関連試薬や顕微授精用マニピュレータなどの器具450千円を計上した。さらに、消耗品として包埋剤・プラスチック・ガラス器具250千円、分子生物・生化学関連試薬および免疫・組織学関連試薬(抗体、ELISAやリアルタイムRT-PCR関連試薬、マイクロアレイや2次元電気泳動関連試薬)740千円として使用する予定である。
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