平成29年度までに、抗癌治療後精子形成障害および改善に関連する液性因子と細胞因子について調べた。ブスルファン処置後の生殖細胞の障害により、Toll-like receptor 2・4の経由で精子形成を支持するセルトリ細胞のサイトカインの分泌が上昇し、これにより精巣間質にマクロファージの浸潤が増え、精巣内炎症反応により精子形成障害がさらに進む悪循環が証明された。TJ107群ではではToll-like receptor 2・4の低下および間質のマクロファージ浸潤の低下、精細管内精子形成の回復が見られた。一方、放射線照射マウスでは萎縮した精細管と生殖細胞に自己抗体の上昇が見られ、血液精巣関門を構成する上皮タイト結合蛋白Claudin11の低下が示された。TJ107群ではClaudin11の回復により生殖細胞の抗体反応が抑えられ、同時に精細管内に精子形成の回復が確認された。平成30年度は、抗腫瘍薬ブスルファンによるマウスの精子形成障害に対するツムラ八味地黄丸・補中益気湯(TJ7・TJ41)の単独投与と合わせ投与の治療効果を調べた。ブスルファン処置後の生殖細胞の障害にTJ7とTJ41合わせ処方を含有させた餌(:ヒト投薬量を体重換算して5倍を餌に含有)投与群では、精巣重量(0.10±0.01g) と精巣上体精子数 (19.87±2.61x105 cells)はともに有意に増加し、ノーマルマウスのレベルまでに回復した。一方、TJ7・TJ41含有させた餌(:ヒト投薬量を体重換算して5倍を餌に含有)単独投与群では、精子形成の改善効果が見出せなかった。以上の結果により、抗癌剤投与後の精子形成障害に八味地黄丸・補中益気湯の合わせ投与は単独投与より回復効果が示唆された。
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