研究課題
保険診療によりヘリコバクターピロリ除菌が可能となった中で、除菌後胃癌の発症に伴う対策が問題となっているが、除菌後異時性胃癌を含む胃癌発症の高危険者を効率的に選定することは、医療経済学的に考えても胃癌予防の観点より非常に有意義と考えられ、そのメカニズムを解明する必要がある。ヘリコバクターピロリ(HP)感染症は胃発癌の重要な因子であるが、上部消化管疾患の多様性を規定する因子は定かではない。cagA, vacAなどのHP病原因子遺伝子の存在や活性度の違いが、疾患の重症度や発症率に影響を及ぼすが、近年、宿主側因子として全ゲノム解析にてPSCA(prostate stem cell antigen)が疾患多様性を定める候補遺伝子として同定された。細胞質型PSCAは免疫系の活性化により胃発癌発症の抑制効果を示し、膜型PSCAは細胞増殖作用により胃発癌作用を促進する可能性が示唆されるが、詳細な生理活性メカニズムは明らかではない。現時点においてPSCAに関連した胃粘膜変化や上部消化管疾患とHP病原因子とのクロストークに着目して詳細な検討をした報告はないが、本研究は、PSCAとHP病原因子の胃発癌におけるメカニズムを解明することを目的として立案された。本研究によりPSCAの遺伝子多型が上部消化管疾患である胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、胃粘膜萎縮に対する影響につき検討するとともに、HP病原因子のdupAの有無別の影響、両因子の相加相乗効果につき検討を行った。HP病原因子のdupAの存在と、PSCA多型との関係は明らかではなく、少なくとも相乗効果は認めていない。現在、除菌後に発症した異時性胃癌症例における分子病理学的な特徴を明らかにすべく、症例の解析を進めているところである。
3: やや遅れている
本研究を開始後より宿主側の因子としてのPSCAの発現に関与する遺伝子多型が上部消化管疾患である胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、胃粘膜萎縮に対する影響につき検討するとともに、HP病原因子の疾患易罹患性に関与するdupAの有無別の影響、両因子の相加相乗効果につき検討を行った。宿主側とHP側との疾患罹患性につきクロストークがあることが予想されたものの、有意な所見は得られていない。本検討ではdupA遺伝子の有無のみでの検討であるが、同遺伝子は周囲の遺伝子群との相互作用により宿主側に影響を及ぼすことが明らかになっており、今後その点に関して研究をすすめる予定である。申請者の所属施設の移動に伴い新規施設での実験系の確立に時間を要していたが、現在は実験系の構築が可能となり、研究を進めていっている途中である。
本研究では、(1)上部消化管疾患におけるPSCA発現の特徴を明らかにすること、(2) PSCA遺伝子発現制御分子経路の解明とシグナル伝達経路の解明すること、(3) HP感染関連胃粘膜傷害におけるPSCA発現調整とHP病原因子の役割を明らかにすること、(4)HP感染マウスモデルにおける胃粘膜傷害に対するPSCA発現調整の経時的変化の検討を行うことの4つを柱に研究を行うことを検討している。PSCAが高発現する遺伝子多型を持つ症例は十二指腸潰瘍に、発現が少ない遺伝子型の症例は胃潰瘍や胃癌になりやすいことが示され、PSCA発現量によって上部消化管疾患の易罹患性が異なる可能性が示されているが、上部消化管疾患の発症に最も関与するHP感染の影響や、各疾患別の発現量の違い、胃粘膜萎縮の進行度による違いなどは明らかではない。各疾患別のPSCA発現量やPSCA発現陽性細胞数とPSCA遺伝子多型の影響、HP感染、胃粘膜萎縮進行度、炎症細胞浸潤程度との相関を検討する予定である。また、前立腺癌や膵癌はPSCA発現量と発症リスクや生命予後と相関することが報告されているが、同疾患罹患者の胃粘膜内PSCA発現量を検討し、上部消化管疾患との関連も明らかにする。更に、HP感染関連胃粘膜傷害におけるPSCA発現調整とHP病原因子の役割として、既存する胃癌細胞株のPSCA発現レベルを測定し、種々の発現レベルの細胞株を用いてHPのwild type感染時の炎症性サイトカインや増殖因子の発現の変化とともに、その制御メカニズムを明らかにする。また、dupAを含めた各HP病原因子のノックアウト菌を作成後にも同様に検討を行い、宿主因子であるPSCAと病原因子の病態生理における相加相乗作用を検討する予定である。
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