稀少疾病である脳内鉄蓄積を伴う神経変性症候群(NBIA)はジストニア、パーキンソニズムなどに加え高次機能障害を伴う遺伝性神 経変性疾患であり、大脳基底核に鉄が沈着することが特徴とされるが、その発症機序は不明である。現在までに報告されているNBIAの 原因遺伝子は1ミトコンドリアにおける補酵素A(CoA)の生合成に関与するもの、2リン脂質の代謝に関わるもの、3鉄代謝に関与す るもの、4オートファジー・ライソソームに関わるもの、5機能不明なものに大別出来る。本研究課題は、細胞内大規模分解系である オートファジーが細胞内鉄代謝に重要な働きを持つことに着目し、NBIA原因遺伝子群の機能解析をオートファジーとの連関に注目して 行うことを目的として開始した。本年度は、前年度までにCRISPR/Cas9を用いて作成したフェリチン軽鎖(FTL)およびPANK2ノックアウト(KO)細胞を作成したが、より表現型が顕著であったFTL KO細胞(細胞内に鉄を貯蔵する働きのあるフェリチン複合体の形成不全、鉄キレート剤処理により誘導されるオートファジーによるフェリチンの分解の抑制が起こる)の解析に集中し研究を行った。これらの表現型が起こるメカニズムについて検討したところ、FTL KOによって、鉄キレート剤処理により誘導されるオートファジーのフラックスの低下が起こっていることが明らかとなった。しかしながら、栄養饑餓によって誘導されるオートファジーのフラックスにはFTL KOは影響しなかった。また、FTL KOはフェリチン分解のアダプターであるNCOA4の発現には影響しなかった。これらのことから、フェリチンのオートファジーによる分解において、FTLがその調節に関わる機能を有していることが示唆された。
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