研究課題
視神経脊髄炎(NMO)の病態は、視神経や脊髄に壊死性の脱髄を生じる中枢神経系の炎症性疾患である。病態機序として、アクアポリンの一種であるアクアポリン4(AQP4)に対する自己抗体が関連し、組織に沈着した後には補体介在性のアストロサイト傷害を起こすことがIn vitroの実験結果から明らかになっている。また、In vivoの研究では、主にマウスにヒト抗AQP4抗体を投与する研究によって、実際に生体内でも抗AQP4抗体が神経組織内にAQP4の脱落病変を起こしうることが知られている。しかし、NMO患者の実臨床や病理像に近い壊死性脱髄や臨床的増悪を起こすような結果には至っておらず、また実際に組織のアストロサイト傷害から脱髄や軸索変性を起こす機序も不明である。本研究の主要な目的としては、再現性が高くヒトの臨床病理像に近い重症型の抗AQP4抗体関連アストロサイパチー病態モデルを構築することである。実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、8週齢のLewisラットを用い、MBP惹起性のEAEに対して抗AQP4抗体を投与し、臨床症状の増悪や病理学的検索を行う。ラット組織に親和性の高い抗AQP4抗体を用いた。結果としては、延髄から腰髄まで広範にAQP4の脱落に伴うアストロサイト傷害(グリア繊維酸性蛋白GFAPの脱落)を来した。病変範囲は、既報と比較して著しく、脊髄面積の半分程度まで拡大する傾向があった。病変部は、AQP4やGFAPの脱落に加えてMBPやMAGの染色低下を認め、マクロファージによる貪食現象が確認された。また、軸索の腫脹や変性像を確認し、空砲変性が病変部に広範に確認された。免疫学的には、同部位には病変部周囲には好中球の浸潤が特徴的であり、病変の境界域で多くは脊髄皮質領域に浸潤する好中球が著明に認められる一方、リンパ球は多くは非病変部髄膜などに浸潤する像が特徴として見られ、病変の拡大には好中球が主に関わっている可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主要な目的としては、再現性が高くヒトの臨床病理像に近い重症型の抗AQP4抗体関連アストロサイパチー病態モデルを構築することである。その際には、NMO患者由来の抗AQP4抗体よりラットAQP4により結合能が高い抗AQP4抗体を用いることが必要と考え、NMO患者で確認されたエピトープを有するAQP4の細胞外ドメインを認識する抗体を作成し、実験に用いることで重症型モデルの作成を行うこと。そしてその重症化を来す機序を解明することにより、特異的な治療法を開発することである。現時点では病態機序の解明として、好中球を中心とした炎症機序により病変が拡大することが判明してきており、それについて近年学会や英文誌Acta Neuropathol Comへの報告を行うことができ順調に進んでいると考えている。
本報告で開発されたモデルは、既報にはない極めて重症型のNMO動物モデルと考えられ、そこに好中球の浸潤による病変の拡大が関わっていることが示唆された点は興味深い。今後、これらの組織障害を来す機序としての分子メカニズムや特異的な免疫学的治療の開発が重要と思われ、抗体によって好中球が導入される機序として補体が介在していると考えている。種々の抗AQP4抗体を用いて検討を行い、さらにEAE研究による検討数をさらに増やして再現性を確かめ、さらには分子機序を解明するために組織内の免疫動態の検討や分子標的治療等による治療研究などに繋げていく方針である。
実験的には実施運用は順調であったが、旅行費用として研究発表のための海外出張を計画していたが、都合により実施しなかったことが主要因となっている。
今後、国際学会などへの出席などを通して、計画的な研究費の運用に心掛ける予定である。
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