研究実績の概要 |
昨年度までに解糖系、酸化的リン酸化回路、ペントースリン酸回路、および脂質代謝関連酵素を対象としてクローニングした多数の遺伝子のプロモーター領域を対象として、引き続きそれらの転写活性が甲状腺ホルモンに応答するか否かを in vitro の系で解析した。その結果の概要を以下に示す。 1.ミトコンドリア関連遺伝子では、ゲノムにコードされたミトコンドリア関連転写因子および UCP5 に加えて、今回 UCP3, UCP1 が誘導されることを見出した。すなわち甲状腺ホルモンは褐色脂肪細胞のみならず、白色脂肪細胞でもミトコンドリアの量的増加(ミトコンドリア新生)による脂肪細胞のベージュ化、および UCPs の増加を介した熱産生の増加に寄与している可能性が示唆される。 2.熱産生のエネルギー源となる脂肪酸は、トリグリセリドがホルモン感受性リパーゼで分解されることにより産生される。甲状腺ホルモンは ANT の増加を介して、細胞質内 ATP の増加と cAMP/PKA 系の亢進によりホルモン感受性リパーゼを活性化し、脂肪酸の燃焼を介したエネルギー供給(ATP 産生)に上流から寄与しているものと考えられる。 3.甲状腺ホルモンは脂肪分解・利用系のみならず、糖から脂肪酸への同化脂肪酸から中性脂肪への変換(G3P をリソフォスファチジン酸に変換する GPAT、特に GPAT3)の発現を誘導することを既に見出している。また本年度は、一部の遺伝子を対象として、甲状腺ホルモンの効果をリアルタイム PCR 法により確認した。 以上の結果を統合的に考察すると、甲状腺ホルモンは糖から脂肪への合成系、および中性脂肪分解系の両者を活性化し、エネルギー代謝全般の回転を促進することにより、必要時にエネルギーを要求する成長や変態、および恒温動物で恒常的にエネルギーを必要とする体温の維持に重要な役割を果たしているものと推察される。
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