研究課題/領域番号 |
15K09812
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
内田 裕之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40327630)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 抗精神病薬 / ドパミン / 時間薬理学 |
研究実績の概要 |
統合失調症の維持期治療において、抗精神病薬が脳内ドパミンD2受容体を持続的に占拠するために、生物学的半減期に基づく処方設計・薬剤開発が現在行われている。しかし我々は維持期において持続的なドパミンD2受容体の遮断は不要であり、間欠的な投与(例:1日1回)で再発予防可能であることを示してきた。しかし、効果を最大化する投与のタイミングは、これまで検討されていない。本研究では、生体機能や疾患症状の日周リズムをふまえて投薬タイミングを検討する「時間薬理学」の観点から、統合失調症患者において、幻聴体験の日内変動を精査し、さらに抗精神病薬による脳内ドパミンD2受容体遮断の程度との関連を調査する。そして、この知見に基づき投与薬剤の生物学的半減期によらない処方設計手法を確立する。 本横断研究では、統合失調症患者を対象に、3日間にわたり幻聴体験の時刻、頻度、持続時間、内容、各時間帯(3時間毎)の重症度を調査し、症状の変動と抗精神病薬による脳内ドパミンD2受容体遮断の程度との関連を明らかにし、この知見に基づき「時間薬理学」の観点から、投与薬剤の生物学的半減期によらない処方設計手法を確立する。 実施場所は慶應義塾大学病院、大泉病院、南飯能病院、下総医療センター、井之頭病院で、目標症例数は80名である。抗精神病悪による脳内ドパミンD2受容体占拠率は、任意の2時点で採血した血中濃度を用いて、申請者が開発した母集団血液動態法モデルおよび脳内ドパミンD2受容体占拠率予測モデルにより予測する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年3月末日現在39名が参加している。抗精神病薬の血中濃度の解析も終えた解析対象者11名の特徴は次のとおりである。 年齢 61.5±9.2歳;性別 男性7名(63.6%);治療環境 入院11名(100.0%);罹病機関 36.4±11.3年;陽性症状陰性症状評価尺度総点 70.2±20.8. この11名における幻聴の持続時間、頻度を、抗精神病薬血中濃度の推定ピーク値またはトラフ値を含む時間帯(3時間)の間で、t検定を用いて比較したところ、いずれも、ドパミンD2受容体遮断ピーク時間帯とトラフ時間帯で統計学的に有意な差はなかった(持続時間、ピーク21.8±30.3分 vs. トラフ27.3±31.3分;頻度、ピーク0.36±0.50回 vs. トラフ0.45±0.52回)。 また、各時間帯に幻聴を経験した患者の割合をカイ2乗検定で比較したところ、18-21時の時間帯で有意に好発していた(63.3%, P=0.03)。
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今後の研究の推進方策 |
予備解析の結果は、仮説を支持するものであった。つまり、統合失調症において、幻聴の出現と消褪は1日単位で見た場合は、必ずしも抗精神病薬による脳内ドパミンD2受容体遮断と関連はなく、むしろ概日リズムの存在が示唆された。つまり内因性ドパミンの日内変動も考慮する必要があるものの、統合失調症の急性期治療の後に精神病症状が残存している場合、急性期同様の持続的なD2受容体遮断が必要ではない可能性があり、概日リズムに注目した治療が有効かもしれない。 今後、研究計画通りにさらなるデータを収集する予定である。
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