研究実績の概要 |
ヒトiPS細胞を利用した再生医療の実現に際し、安全性担保、特に腫瘍形成回避が必要条件となる。本研究ではiPS細胞由来未分化細胞を除去することを目的とし、分子標的阻害剤によるex vivo purgingを試みた。 Bromodomain and extraterminal (BET)タンパクファミリーはBRD2, BRD3, BRD4, BRDTからなり、RNA polymerase IIによる転写制御に深く関わっている。Bromodomainを介してヒストンテイルのアセチル化リジン残基を認識し(=Epigenetic reader)、アセチル化クロマチンへ転写制御複合体をリクルートする。特に、BRD4は幾つかの癌腫で c-Myc, NK-κB, Nanogの発現を制御するといわれ、これはSuper-enhancerへのBRD4結合による。Cell contextにより異なるが、ヒトiPS細胞においても Super-enhancerを介したJQ1によるc-Myc, Nanog制御が想定され、未分化細胞除去への応用が考えられる。今回、我々のスクリーニングの結果、ヒトiPS細胞の増殖を特異的に抑制することが判明した。 まずヒトiPS細胞(253G1, 201B7)に対し、Epigenetic修飾薬であるBET阻害剤(JQ1; 1 μM)をin vitroで添加したところ、96 hrでほぼ完全に死滅した。また同剤が強力なNanog阻害剤として作用することを確認した。一方、分化細胞(ヒトiPS由来心筋細胞、ヒト線維芽細胞)に対しては毒性を呈さなかった。次にヒトiPS由来心筋細胞が含有する未分化細胞を定量化したところ、未分化マーカーTRA-1-60陽性率1.99±0.04% (無処理群)に対し、0.17±0.09% (BET阻害剤96 hr処理群)と有意に未分化細胞の減少を認めた。 ヒストンアセチル化に関与するBET阻害剤(JQ1)はヒトiPS細胞においてSuper-enhancerを介した多能性因子制御を行うと考えられている。また実際に造血器腫瘍をはじめ多くの癌腫で臨床試験化されている(Phase II試験施行中)。今後、“ヒトiPS細胞”を対象とした分子標的治療薬としての可能性が示唆された。
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