研究課題
ヒトiPS細胞を利用した再生医療の実現に際し、安全性担保、特に腫瘍形成回避が必要条件となる。本研究ではiPS細胞由来未分化細胞を除去することを目的とし、分子標的阻害剤によるex vivo purgingを試みた。昨年度までの実績として、BET阻害剤JQ1を単剤で使用することにより、iPS細胞由来の残存未分化細胞を効率的に除去できることを示してきた。本年度は薬剤併用によるより深い未分化細胞除去効果を目指して分子標的阻害剤のスクリーニングを行った。その結果、CDK阻害剤 (CDK9 or CDK1阻害剤)がBET阻害剤 (Nanog阻害剤)と共に相乗効果を呈することを見出した。具体的には、転写complex P-TEFb を形成するBRD4とCDK9を同時に阻害したところ、未分化細胞除去において相乗効果を呈した(BET阻害剤+CDK9阻害剤)。しかし、CDK9阻害剤 (Flavopiridol)は、ヒトiPS細胞において多能性関連遺伝子 (Nanog, Oct4, c-Myc)の発現を抑制しなかったことから、同相乗効果はNanog抑制以外のメカニズムを介したものが想定された。同様に BET阻害剤+CDK1阻害剤でも未分化細胞除去に関して相乗効果を確認した。以上より、残存未分化細胞を除去して造腫瘍性を回避する観点から、複数の分子標的阻害剤を併用する利点が示唆された。単剤と比較し、低用量の併用で相乗効果が得られることから、side effectの軽減につながると期待される。本研究で使用された分子標的阻害剤は種々の癌でPhase II試験施行中であり、今後、“ヒトiPS細胞”を対象とした分子標的治療薬としての可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた通りの進捗状況である。
今後の予定は以下の通りである。(2-5)ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートのin vivo造腫瘍性試験(2-6)(腫瘍発生時に)腫瘍の網羅的遺伝子解析、メタボローム解析(2-7)(BET阻害剤の)標的分子の網羅的解析(2-8)(発展)マウスin vivoモデルにおける未分化細胞in vivo除去効果
物品費(消耗品費)として消費することができなかったため、次年度へ繰り越す予定。
次年度の物品費(消耗品費)として使用する予定。
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