本研究では,播種性腫瘍細胞(DTC)の休眠と覚醒の制御機構にepigeneticなmicroRNAが関与しているかどうかを検証することを目的とし,さらにDTCを治療標的とした場合,休眠させたままの方が良いのか,細胞周期を静止期から追い出し覚醒させた上で治療の感受性を高めるべきかを検討した。 検出されたDTCの休眠と覚醒の制御メカニズムに,epigeneticなmicroRNAが関与している可能性は明らかで,今年度(最終年度)の実績として,遠隔転移を起こした口腔扁平上皮癌症例の手術検体について,特定されたmicroRNAの発現と臨床病理学的因子との相関性を検証した。特定されたmicroRNAであるmiR-21をparental cellおよび高浸潤能細胞に導入した。データベースで予測されたターゲット分子について,microRNA導入前後の発現の変化をmRNAレベル(RT-PCR)およびタンパクレベル(Western blot)で解析した結果,DKK2やBカテニンおよびカドヘリンの発現が有意に阻害され,これらの細胞接着因子がDTCの特性に密接に関与している可能性が示唆された。さらにin vitroでの細胞生物学的特性の変化を検討するために,マトリゲルインベージョンアッセイやwound healing assayを行い,浸潤能あるいは遊走能の変化を評価したが,有意な特性の変化は残念ながら得られなかった。その原因としては,DTCが活動的になるためには何らかの環境因子が必要であるとも考えられた。 現在,更なる検討として同意の得られた口腔癌患者の末梢血および手術材料について,miR-21の発現を検討し,臨床病理学因子との相関性を明らかにし,臨床的意義について考察しているところである。以上の結果から,細胞周期を静止期から追い出し覚醒させた上で治療の感受性を高めるべきと考えられた。
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