研究実績の概要 |
矯正歯科臨床においては、さまざまな金属材料が用いられている。しかしながら、口腔内の唾液環境下では金属イオンが溶出し、時にⅣ型の遅延型アレルギーを惹起することがある。矯正装置の合金から溶出する金属イオンは微量であるとともに、唾液の流動性によりその濃度の変動は大きいものと思われる。本研究では、矯正装置が口腔粘膜に接触することで局所に高濃度で金属イオンが沈着している可能性があることに着目し、ICP-MS やSR-XRFなどにより微量元素の分析を行った。これまでの実験のなかで、 、①in vivoにて、NiおよびNi-TiワイヤーにRhメッキを施し、ラット皮下ならびに口腔内に留置。その後SR-XRF,XAFS を用いて軟組織内への金属イオンの沈着を評価した。そして新たに②in vitro下において、①同様の試料を1%乳酸溶液中に1週間ないし2週間浸漬し、溶出についてICP-AESを用いて評価を行った。①においては、Ni群では皮下留置群、口腔粘膜接触群ともに、明らかな金属イオンの溶出・沈着が認められたが、Ni-Ti群ではほとんど認められなかった。また、Rhメッキにより、金属イオンの溶出・沈着の抑制が確認された。②においては、Ni群においては、金属イオンの溶出が顕著であったが、Ni-Ti群では認められなかった。また、Rhメッキにより溶出の抑制が確認できた。しかしながら、①、②ともに、一部のNi-Ti Rhメッキ試料において、顕著な金属イオンの溶出が認められた。これは部分的なメッキの剥離に伴う局所の電位の変動が原因であることが推察され、追加実験を行った。その結果、乳酸などの弱酸性の環境下においては、NiTiワイヤーからの金属イオン溶出はきわめて低いものの、短期的にはRhメッキにおいても溶出は認められた。一方、長期的にはRhコーティングにより、金属イオンの溶出は抑制されることが認められた。
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